パチンカスになった俺がメンヘラ女を好きになった話を語っていく
1:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 10:58:05.561ID:Odf1ZQp/0.net
一昨日スレ立てした者です。

書き溜めたので語っていきます。

平日のこの時間に立ておいてあれですが、一応サラリーマンです!!



3:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 10:58:53.922ID:Odf1ZQp/0.net

年齢:当時はたち
顔:キモオタ(ピザではない)
職業:大学生
趣味:アニメ、パチスロ

アスカ(仮名)
年齢:当時22歳
顔:芸能人詳しくないので漫画で例えると、五等分の花嫁の一花
職業:フリーター
名前の理由:初見で何故かアスカと思ってしまったから(別にアンタばかぁ?とか言われてない)

その他登場したら簡単に書きます



5:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:00:14.971ID:Odf1ZQp/0.net
その日は期待の新台、
そして歴史に名を残すことになる名機【SLOT魔法少女まどかマギカ】の導入日3日目だった。

その頃パチスロ歴半年ほどの俺は、
ホールまでの道のりで過去最高の高揚感を感じていた。

もともとアニオタではあったが、
パチンコやスロットをしていなかった俺がパチンカス(スロカス)になったのは、
バイトの夜勤明け、先輩に無理やり連れていかれたことが原因だった。

以来ちょくちょくホールに足を運ぶようになった俺は、
半年ほどのスロライフをアニメタイアップに捧げていた(主に化物語とかエウレカセブン)

そんな俺にとって、2011年の覇権アニメがついにホールにやってくるとうことは、
某大統領が緊急来日するくらいの衝撃だった。

昼過ぎにホールに到着。
ネットの評判や版権を考えるとなかなか空きがないかと思って過疎店を選んだのが功を奏し、
見事、6台中1台の空き台をGET!!!!!


スロットやらない人には台の感想とかどうでもいいと思うのでそのあたりは割愛します。



7:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:01:47.410ID:Odf1ZQp/0.net
で、打ち始めてから3時間くらい。
俺はあろうことか騒音と紫煙に塗れるパチンコ屋の中で滂沱の涙を流していた(ガチです)

昔ニュースでCR冬ソナがリリースされたとき、
おばちゃんが行列作ってたり、台の前で手を合わせて泣いてたりする姿を見たけどあんな感じ。

なにがそうさせたかって?

別にぼろ負けして生活費をなくしたとかそんな落ちはない。

これはスロカスにしかわからないと思うけど、
まどマギてスロットとしてはもちろん、版権の活かし方の完成度が異常だった。

約束する・・・!
必ず貴女を救ってみせる・・・!
なんど繰り返すことになっても・・・ッ!

これをホールで聞いた途端俺は堪え切れず嗚咽し咽び泣いた。
信者ですまん。

その時である。

「あ……キモ……っ」

頭の上から確かに聞こえた。
やかましいホールの中で確かに聞こえた。
蔑むというかドン引きした女の涼やかな声。

アスカとの出会いだった。



10:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:03:18.483ID:Odf1ZQp/0.net
我に返った俺は急激に夢から醒めていった。
同時にさー、と血の気が引いていくような、立ち眩みするような寒気に襲われ、
矛盾するように顔中が熱を帯びていくのを感じた。

声がしてコンマ数秒で振り返る。
視界はぼやけている。そりゃあさっきまで「ほむほむぅ・・・ほむほむぅ・・・」などと男泣きしていたのだから当然だ。

で。

そこにいたのがえらい美人。

に見えた。

さすがに鮮明に覚えているわけじゃないけどこれだけははっきり覚えてる。

振り返って初めに俺の目に飛び込んできたのは、
すらっと長く、細いくせにやけに肉付きのいい黒タイツに包まれた脚だった。

そりゃあ座ってるから当然だよね。

すっごいむらむらしたんで印象的に覚えてる。

振り返るまでは反射だけど、そこから先はなんていうか自然な流れで、
ふとももに釘付けになりそうな視線を上昇させた。

黒タイツのおみ足が生えているのはデニムのショートパンツ。
上半身は黒色のパーカーで前のジッパーは閉まっていたけどフードはかぶってなかった。
顔は普通にかわいい。
ショートカットでちょっときつそうな眼をしていた。



11:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:03:45.378ID:Odf1ZQp/0.net
ドラマとかだったら、

「何見てんの?」
「いや、なにそれ俺に言ってんの?」
「そうだけど何?」
壁ドーン!
「……ほら、もっかい言ってみろよ?」
「……しゅき」

とかなるのかもしれんけど、俺はキモオタだ。
冷ややかな視線と罵倒に下半身は立っても足腰は立たない。
壁ドンとかイケメン行為は到底不可能である。

なんで何か言うでもなく、もちろん行動を起こすでもなくただ目を泳がせることコンマ数秒。
アスカは素っ気なく去って行ってしまった。

やけに長々書いてるけどここまで数秒くらいの出来事。
実際、当時その瞬間は一瞬で過ぎ去ったと思う。

その日、アスカに罵倒され、涙もまだ乾いていない瞳でまどマギをぶん回し、
昭和初期のサラリーマンのボーナスくらいの勝ち額を手にして帰った。
現在の貨幣価値にしておよそ7万円である。・・・すまん、ゆとりなんで合ってるかしらん。

アスカとのエピソードはもう少し先の話。

その日以来俺はほぼ毎日のようにまどマギを打っていた。
バイトは基本的に夕方から0時までだったし、
大学は、適当にさぼったり空き時間に真ん前にあるパチ屋に行ったりしてた。

そうこうしながら1週間ほどが過ぎる。

俺は相変わらずまどマギにどっぷりはまっていたけど、
さすがにあの日以降泣いたりはしなかった。いや、えらい負けて半べそになることはあったけど。

で、とある週末のこと。

俺がもともとまどマギの初打ちをしようとシフトを休みにしていた休日のことだ。

その日、アスカ襲来その2が起きた。



13:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:04:13.341ID:Odf1ZQp/0.net
折角丸一日をフリーにしたというのに、俺はその日見事に寝坊した。

俺はリア充なので当然休日ともなればツレとのサーフィンや行きつけの美容室から逆指名が入ったり片手では足りないくらいの数の美女からデートのお誘いがあるのだが当然すべて断って無理やりに空けたスケジュールだったので無念ほんとに無念今でも後悔している。

寝坊の理由は確か前日の夜になんかのアニメを一気見してたんだと思う。シュタゲだったかな・・・?

そんなこんなでホールにやってきたのはお昼を回った頃である。

そして俺の目には残酷な光景が飛び込んできた。

まどマギが、空いてない。

人生二度目のホールでの涙を禁じ得ない瞬間だった。いやマジで。

仕方ないので俺はまどマギが空くまでホールを彷徨うことにした。
化物語の前を通り過ぎ、撫子の「中だよぉ」というナビに興奮しつつ、
意味もなく北斗の島でJOJO立ちしたりした。

週末だけあって過疎店でもそれなりの賑わいを見せていたが、
その中でも一際目を引くコーナーがあった。
パチンコ屋行かない人は想像できないかもしれないけど、
出玉がなんかナイル川みたいになっているのだ。

ようはコインが入った箱が、台座に乗せられて行列を作ってるのね。
その時は行列ていうか池?なんていうか通路に所せましと溢れ返ってた。

うわ、すっげ、と思い、そんな出てるんなら自分も打とうかな、てことでそのコーナーに俺侵入。
そしたらやおら、

「うわぁあ――……ッ!!」

と、悲鳴みたいな嬌声?みたいな短い叫びが聞こえた。

誰あろう。

アスカだった。



14:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:04:42.648ID:Odf1ZQp/0.net
前回遭遇した時は俺が座ってたから気づかなかったけど、
アスカ意外とちっさい、そして細身。
そんな矮躯を弾ませるみたいに背もたれに背中をぶつけてた。

はじめ俺は、アスカの悲鳴は俺が背後に立ったことが原因かと思った。
何せ出合い頭の罵倒だ。そして汚物を見るようなあの冷徹な蔑みの視線(脳内補完)
初対面でそんな態度をとった男がいきなり後ろに現れたら、うら若き乙女が悲鳴を上げるのも納得できる。

結論から言って思い過ごしだった。

アスカは短い悲鳴の後嬉々として台に向かい合い、
子供が初めてもらった玩具で遊ぶみたいにはしゃぎながらレバーを叩いていた。
後に知ることになったが、その時アスカは超番長ボーナス(一番いいボーナス)を引いていた。

で、まあ、それってなかなか出ないもので、
物珍しさでギャラリーが数人集まったりした。
いち早く現場にいた俺は台の真後ろからそれを眺めていたが、
番長のことなど何も知らんのでなにが起きてるのかわからない。
( ゚Д゚) ← たぶんこんな顔してた。
ギャラリーが好奇の視線を向ける中、アスカはきゃっきゃいいながらレバーを叩く。
派手に画面が光ってアクションが起きようものなら、
「よっし」と小さく気合を入れたり、
「っいくぞー!」と溜を作ったり、
「やたっ!」とかガッツポーズして、
それはそれはオーバーリアクションしていた。

すっげーかわいい。

などと俺は思わない。
このころの俺はまだ中途半端な自尊心を内に秘めた自称イケてる大学生。
初対面で悪態をついてきた女の奇行を冷ややかに見下していた。
いちいちリアクションがうぜえ。てか女がパチ屋にくんな。BBAになってから出直せ。

後に稀代のマゾヒストとして覚醒する俺の、口に出さない罵声は続いた。



17:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:07:18.772ID:Odf1ZQp/0.net
結局その日はまどマギを打てずに帰宅した。
別の台でいくらか勝ったのでツレに奢ったけど何を打ってどんな展開だったかまでは覚えてない。
とりあえず番長コーナー(アスカのいたコーナー)は終日盛況で、その日の当たりコーナーだった。

それからもしばらく俺のまどマギ熱は続き、
比較的台の確保しやすいそのホールに通う日々が続いた。

そんなある日だ。

給料日を前に、種銭が尽きた。

なんだあの魔法少女。可愛い見た目でえげつないくらい俺からしぼりとってくぞ?いやマジでマミる。

正確には一文無しなったわけではない。

光熱費や食費、いくらかの現金は所持している。

しかし、俺はそこまでディープなパチンカスではなかったはずだ。
きっちり適度に楽しむ遊びとして趣味の範囲にとどめていたはずなのだ。

しかしながらSLOT魔法少女まどかマギカに対する俺の思いはエントロピーを凌駕した。

なによりネットに上がっているドヤ画像、動画のように、俺もアルティメットバトルがしたい!!
アニメ最終回をホールで流して咽び泣きたい・・・!!!!

Qべえ「その願いは、諭吉を賭けるのに相応しいものかい?」
俺「生活費でも、なんでもいい……さあ、叶えてよインキュベータ……ッ!!!!」

数時間後

俺「あたしってホントバカ……」

人生で初めて借金を考えた。適当なことを言って親に泣きつくか?

現在の戦力は諭吉未満樋口以上。ここで引けば、案外給料日まで生き延びられるかもしれない。
しかし俺は魔法養分ギャンブラー。迷ったら特攻である。

しかしまどマギはこれ以上危険だ。
なら何を打つ?

僅かな思考の末、俺の脳裏にはいつかの光景がフラッシュバックした。
そう、例の番長大爆発である。

当時まだそこそこの主力としてホールで稼働していた番長は、
その店でも一島分の台数を抱えていた。出る可能性は十分ある・・・!

で、番長コーナーに俺降臨。

確か平日だったと思う。空き台は十分あった。
その中から全く台に対する知識の無い中一台を選び着席。
いざ。
参る。

数分後。

樋口一等兵、野口二等兵数名、討ち死に!!!!

俺はラインの中から何も聞かずに金を貸してくれる友人を探した。



18:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:07:34.272ID:Odf1ZQp/0.net
あえて触れていなかったが、その時番長コーナーにいたのは俺を含む数人。3,4人だったと思う。

その中の一人にアスカがいた。

いや、気づいてたよ。
というか俺もこのホールの常連だから、
こいつがホールに入り浸ってる依存症だって知ってたよ?
でさ、前述したとおり、アスカていちいちオーバーリアクションなのさ。
空席を挟んで一つ隣がアスカだったんだが、
負けてることも相まってアスカの一挙手一投足がいちいち癪に障る。

俺はラストホープ野口をサンドへ挿入し、死んだ魚の目で台と向き合う。
その時だ。

「もーふーりーむーかずーあるいていけーるさっ、いつかーまーたあうそのーひーまでー♪」

アスカの歌声が聞こえた。

あ?なにこいつ、パチ屋をカラオケか何かと勘違いしてんの?
いや、店内の有線うるさいし、騒音やばいからはっきり聞き取れないけどさ。

上半身を小刻みに揺らしながら笑顔で口を動かすアスカ。
多分アスカの声を聴きとれたのは俺がその姿を凝視していたからだろう。

俺は負債のこともあり、憤怒を抑えきれなくなりそうだった。
こいつ、パチンコ屋なんかにいるんだから18は越えてるんだよな?
なんですか、わたし天然なんですー☆みたいなアピールですか?
こんなとこでぶってんじゃねーよ!!!!わかったら今すぐにその歌声を止めろ!!!!

いつかの自分へ特大ブーメランを投げつつ。

俺は自分の台の演出と向き合っていた。

で、確か卓球だったと思う。(すまん番長とか全然打ってないんで覚えてない)

スタープラチナを従えてそうなごっつい主人公がなんか卓球やってんの。
俺は数人の同士を討ち死にさせる間にこの手の演出が外れるのを何度も見てきた。

財布の中も空になりすさむ心で、
はいはいワロスワロス、と演出を進める。
確かベランダでもやしを栽培しているツレがいたはずだ。分けてもらえば当面のsy

「イタダキラアアアアアアアシュッ!!!!!!!!」

ファッ!?



19:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:08:01.705ID:Odf1ZQp/0.net
あ、当たった・・・。
しかもラッシュということは、一発逆転の可能性がある!!!
これを伸ばせば・・・いける!!!

ふははは、すまんな愚民共!
俺はベランダでもやしを栽培している貧乏学生とは違うんだよ!!!

台「すまんかった」

俺の一発逆転への願いは数分で終わった。
確かちょっと伸びて、150枚くらい?出たと思う。
すぐ交換すれば数日分の食費になる。これでレトルトのご飯を買い、もやしを貰おう。
そう思い、時間も時間なので箱にメダルを移し、腰を上げる。

「えっ!? それやめるの??」

アスカだった。

驚いた。
いや、アスカも驚いてたし俺も驚いた。
真ん丸な目を見開いて、さりげなく俺の二の腕をつかんでいる。
勢いと微弱な拘束のせいで俺は中腰になった。

「……いや、まあ、ないかなって?」

これはパチンカスが逃げるときに使う常套句。
悪いのは俺ではない。そもそも勝てるフィールドに立てていない。
それが分かっただけでも収穫だ。ここはスマートに戦略的撤退を・・・

「や、今の通常ラッシュでしょ? それにまだ引き戻しの前兆もあるし、
そもそもちょうどソーン手前でうんたらかんたらふじこふじこ!!!!」

この娘は何を言ってるんだ。
同類である俺にすらそれは別次元の言語に感じた。

要約すると、

「へいへい兄ちゃん。あんたもう泣き寝入り決めて逃げ帰るのかい?
いけないねえ、そんなんじゃ。あんたは勝負に対する熱がなっちゃいない。
いいかい? そいつはまだ刃を隠してる。
聞こえないかい?
鞘に収められた白刃が今か今かと抜き放たれるのを待ってる声が・・・!」

いや、俺逃げなきゃ死ぬじゃん。
とりあえずここで辞めてはいけないらしかった。
正直早く帰ってさやかさんの同人誌ですっきりしたかったが、
アスカの勢いに負けて俺は持ちメダルを飲ませる作業を始めた。



20:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:08:19.677ID:Odf1ZQp/0.net
で、その後の俺、無事死亡。
3000円相当あったメダル、消滅。
わかってたけどさ。酷くない?
あの女は店長からの刺客だったんだ・・・!と横目に睨む。
奴はきっちり何箱かの持ちメダルを保有していた。サクラやろ、あいつ?
今度こそ一文無しになった俺は離席を決意。
主人公がライバルとくだらない対決を始める準備をしていたが、お構いなし。
なんか上半身裸で腕立て伏せしてるところね。俺はノンケなんでパス。
どうせハイワロ対決に行って片言の黒人にぶっとばされるんだろ?
この時時刻は確か20時半ごろだったと思う。
帰宅を決め込んだ俺は未練がましく一台だけあったまどマギの空き台をポチポチしてた。
なんだこりゃ。めっちゃへこんどる。うたんでよかったわ。まあ、どうせまけたんですけどね。

卑屈になりながら出入り口へ。

そして。

アスカ襲来その3

「ねえ!!!」
「?」

んだ、こいつ。
なけなしの残金をかっぱいどいて、その上さらに俺に追い打ちかけよってか?

「さっきの台当たったよ? お金おろしに行くの? だったら抑えとかないとダメじゃん!」

要約すると俺の打っていた台は、どうやら俺が辞めた後に大当たりに当選したらしい。
あのガチムチ野郎、俺がいなくなるやライバルをぶっ倒しやがったのか。
てかそんなこといちいち報告しにきやがったのかこいつは?
などと考えていると、アスカはぐいぐい俺の腕を引っ張ってくる。

「ちょ、なに」
「早く戻って!」

戻ってどうする。
現在進行形で大当たり中の台を指さして、
「いやー、そいつ俺がさっきまで打ってたんすよ。当たると思ってたんだよねー?
悪いけど返してくれない?」とでも言えってか?

「ちょ、ちょっと、あの」
「早くしないとわたしが掛け持ちで怒られるから!!!!」

心底焦ったみたいにアスカは言った。



21:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:08:36.186ID:Odf1ZQp/0.net
席に戻ると確かに当たっていた。
液晶には完全勝利の文字とどや顔のガチムチ。

「どうぞ」

アスカが俺に着席を促す。
え、いいの?

「いいよ。ほら早く」
「あ、ありがとうございます……!」

これまで内心で悪態をついていたが、もちろん面と向かって文句を言ったことはない。
キモオタにリアル女子を罵倒するなど難易度が高すぎる。しかし敬語とは我ながら・・・
この時ばかりはアスカが天使に見えた。
真実、アスカのルックスはいい方なのであながち間違いではない。

そして俺は気づく。

画面は完全勝利(当たってますよ、という告知画面)

これ、回すにはメダルいるよね?

俺今おけらだけど??



22:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:08:51.750ID:Odf1ZQp/0.net
足元にメダルが落ちてないか探そうとして気づく。
アスカが自分のメダルを残しているのだ。
当の本人は自分の台を引き上げて帰ろうとしている。
これはさすがに・・・

「あ、すいません……」

うんしょっ、てな具合に箱を抱えるアスカに、どもりながら俺は言った。

「メダル忘れてますよ」
「?」
「いや、その」

俺の台を指さすと、アスカは合点がいったとばかりにぱあ、と明るくなる。

「ああ、いいよ。それ!」
「え?」
「使っていいよ。頑張って!」

なんやこいつ、ほんまに天使かよ。
この時俺は完全に初対面の時のことを記憶の彼方へ消し去った。
この荒んだパチンコ屋に女神が降臨したのだと確認した。

そこからの展開は省く。

結果から言ってそっから例の台はびっくりするぐらい出た。
その日の負けを帳消しにして、閉店時間を迎えてもまだ出ていた。
俺はその日初めてパチ屋の会員カードを作り、時間延長サービスを使った。

一応、パチンコやらない人に説明しとくと、カード会員になると、
通常の営業時間より20-30分長く遊戯ができる(店舗と地域によるが)
あ、てかこれ言うと地域特定されるのかな?まあいいや。

で、延長するとその日は現金に交換ができなくて、
カードにポイントみたいにためておいて、次の日以降で交換することができる。
再来店を促進する目的だろうな。

結局俺は数万円分のメダルをカードに入れ、
すっかすかになった財布をけつのポケットに入れて帰宅した。



23:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:09:09.224ID:Odf1ZQp/0.net
2日ほど冷蔵庫の残りと友人のおすそ分け(強奪ともいう)で食い繋ぎ、例の店に向かった。
取り急ぎ前回の出玉を現金に交換しなければならない。
しかしパチンカスとは悲しい生き物で、【打つ】以外の目的があって来店した場合でも、
あの空間に入ってしまうとどうしても打ってしまう。
たちが悪いのは自分で薄々そのことに気づいていて、バイトの休みの日にホールに行ったことだ。
大学? ああ、その日は2限しかない日だったんだホントだよ?

アスカいるかな・・・

ええ、はい。俺はアスカを探していました。
これは強がりとか演出で言うんじゃないけど、
例のことがあるまで俺は本当にアスカを嫌っていた。
元がひねくれ屋で卑屈だから、目立つことをする人間が嫌いだったのもある。
アスカは初対面があれだったし、パチ屋とかいう底辺の集まりの中で際立って異彩を放っていたから攻撃しやすかったのだ。

そして当然のようにアスカは番長を打っていた。
こいつ、どんだけ好きやねん。

俺は即座に財布の中身を確認。
ふむ。小銭が数枚ある。
外の世界より数十円高い自販機の前へ行き、セブンアップを購入。
ジョージアのコーヒーと迷ったが、女の子は缶コーヒー嫌いという謎の先入観から炭酸飲料を購入。
前回のお礼のつもりだった。

アスカのもとへ舞い戻り、声をかける。

「やあ、こないだはどうも」
「あー、ゾーン取り残しの人だー! しかも高設定ぽいのに捨てようとしてたよねー?」
「はは。面目ない。つい冷静さを欠いていたよ」
「あの後どうだった?」
「ああ。おかげで大勝さ。君には感謝してるよ。あ、これ、よかったらどうぞ」
「わ、セブンアップ! わかってるー!」

無論俺の妄想だ。

現実は近くまで行ったけど声をかけられず。
なんなら相手に気取られないくらいの距離を保って一人きょどっていた。
そして俺は。

アスカの隣の番長に座った。



24:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:09:25.088ID:Odf1ZQp/0.net
尻の財布を抜き取る(大げさに肘突き上げる)
折り畳み財布をスナップを聞かせて片手で開く。
颯爽とオニューの会員カードを抜きだし、サンドへ!!!!(牙突並みの勢い)

お願い・・・届いて・・・・・・ッ!

「おー、どうもー」

やったぜ。

もはやコミュ障と言われることを甘んじて受けよう。
一連の行動はアスカに俺の存在を気づいてもらう為だ。

「あ、ども」精一杯のスマイル0円をお見舞い。
「こないだどうだった?」
「おかげさまで、えっと、閉店まで」
「よかったね! なに、絶頂とか入ったの?」
「え、ぜっ」

俺氏、困惑。
なにこの娘、誘ってんの?
もちろん今ならわかる。絶頂ラッシュね。ちなみに俺は絶頂童貞です。
あたふたしつつも、その程度の下ネタで動じない男を保つ俺。
アスカはにこっとして自分の台に向き直った。
会話終了。
おい、ちょっと待て、どうすんだこのセブンアップ。

俺。

最 大 の 勇 気

「……よかったら、これ、飲みますか?」

言ってやったぜ!!!!

「え? あ、わたし炭酸無理」

ほむぅ・・・・・・



25:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:09:37.547ID:Odf1ZQp/0.net
なにやら気まずくなった。
多分俺だけ。
アスカはそんなこと気にしてない感じでもう自分の台打ってる。
座った手前、すぐどっか行くと明らかにアスカ目当てなのがバレるから俺は血を吐く覚悟で番長を打つ。
正直俺は番長は苦手、というか嫌いだった。

今だからわかるけど、指摘されてる通り、番長2はまどマギシステムの先駆けで、
まどマギが面白いなら番長2も面白いと感じるのが大方だろう。

そういう意味では俺は、まどマギだから、まどマギが好きだったんだと思う(哲学)

前回結構出しておきながら、
番長を打つのは嫌だったので適当に回してなんか理由つけてやめようと思った。
まだ俺は知らない。
この選択こそが大きく俺の今後を分岐させることを。

打ち出して数百ゲーム。
規定ゲーム数ごとにくる前兆とレア役なんかでざわざわ。
システムを理解していない俺でも、なんか騒がしい、くらいは察せられる。
今回は前回の出玉もあるので臭い間は辞めないようにしよう。お、俺なんかできる奴ぽい?
そして騒めく液晶。
と、対照的に。

リール「ぬるー…………」

違和感ッ!圧倒的違和感……ッ!

なんかゆっくりリールが回りだし、
お気づきでしょうみなさん、
あれが来ました。

「え、超番!!!」

言ったのはアスカだ。
俺の台の異変にいち早く反応したのは本人ではなく隣の娘っ子だったのである。



26:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:09:55.242ID:Odf1ZQp/0.net
そっからなんかもうアスカ大興奮。
俺はふーんこれすごいの引いちゃった?流れ来てる?
みたいな気分だった。
や、フリーズて気づいてたかな・・・?ちょっと曖昧で覚えてない。
そもそも今でも番長2とサラ番のフリーズはわからん。
単独で超番長ボーナスが成立したらフリーズなの?
でも強弁当とかBB完走でもぷちゅんするよね?(番長2は全然打たなかったのでサラ番の知識で申し訳ない)
七を揃えて突入。

「漢の魂、もやしてやるぜえええええ!!」

辞めて、アスカさん。
恥ずかしいから大きな声出さないで。

俺はガン見してくるアスカを気にしながらレバーオン。
ナビが出ない。
液晶付きの台で純正ボーナスが搭載されていることに衝撃を覚えたので、
この時のことは意外と覚えてる。
すげーベルそろう。なにこれ。もりもり増える。確か300枚くらいだっけ?
で、たまにくるカットインをリールぐーるぐるさせながら揃えた。
すると途中。

「ねえ、お願い、やらせて!」リアルにこんなこと言ってきたのだ、アスカが。

ちょっとドキッとしたけどさすがにわかるよ?
超番代われってことでしょ?
うんいいよ。
カットイン発生のタイミングで席を立とうとするとアスカ、こちら側に身を乗り出してくる。
そしてそのままボタンを押してリールを止める。

「……しっ!」

ガッツポーズ。小さめでクールだ。
俺は椅子を立つタイミングを逸した。
あろうことかアスカはぐいぐい俺に体を寄せてくる。
今でもなんかたまにジャグラー打ってるカップルがこんな姿勢なの見かけるけど、
なにこれ、めっちゃ恥ずかしい。
アスカは隣の席からレバー音もリール停止もすべて自分でし始めた。
一方俺は。

女の子の柔らかさとほのかに香るいい匂いに下半身に血が上るのを抑えた。



27:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:10:28.249ID:Odf1ZQp/0.net
超番長ボーナスを消化し終わり、頂ラッシュへ。
心底俺は驚いた。ART機なのに気づけば下皿いっぱい。
300枚くらいだから6000円相当か?
それがものの数分で出てきて、しかもまだ増えるという。

「天国ループ次第だねー」

アスカはそう言って自分の台に帰っていった。
そこからは天国ループ(当時の俺は超番の恩恵とか知らない)とか上乗せやらで伸ばす。
特になんかあったわけでもないし、稼働内容なんて覚えてないから一気に終了まで飛ばします。
俺の当たりが終わるまでアスカはずっと隣で打ってた。
出ては飲まれ、出ては飲まれでちょっとずつマイナスが増えてる感じだったかな。
印象的だったのはBBは毎回操を選択し、時折楽曲を口ずさんでいたことだ。
当たり前のことだが、アスカは常に奇行をしているわけではなかった。
隣の台の超番を体ごと乗り出して消化するのは十分奇行だが・・・。
けれど毎度毎度レバーに気合をコメロォ!!みたいなのはなく、
いわゆる叩きどころで力が入っていたり、小さく声をあげたりしていた。
今までは俺の見る目のせいで悪目立ちして見えたんだろう、と思う。



28:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:10:41.657ID:Odf1ZQp/0.net
最終的にその日も俺は大勝。
前回の勝ちも合わせて交換し、所持金は一気に10万くらいになった。
今回は当たり終了後すぐにやめるのではなく、少しだらだら打ってた。
引き戻しとかなんとかより、いっぱい出てしまうとどうしてもまたさっきみたいにならんかな、
といわゆる未練が出てしまうのだ。
そして短い賢者タイムが終わり、メダルを箱に詰めて終了。
店員さんを呼んでジェットカウンターへ。ちなみに俺は今現在でも3箱くらいは自分で運ぶ。
少し嬉しかったのは辞め際にアスカが、
「辞めるんだ。……わたしもやめよっ」
と言ったことだ。
なにそれ、「俺君が帰るならわたしも帰るっ! 一人にしないでっ!」てこと?
「せっかく最後伸びたし、今ならプラスだからねー」
引き際引き際―、と彼女は仰せ。
しってまんがな。
忘れられてるだろうけどここは過疎ホール。
閉店間際とか、週末とか推し日(そんな露骨じゃないけど)でもなければ、
ジェットカウンター(出したコインを数える機械)やカウンターは比較的すいてる。
同じタイミングで辞めたこともあり、俺とアスカはカウンターでもご一緒に。
そこで景品を受け取り、自然な流れで謎の窓口へ二人で向かう。

正直言って俺はこの時アスカを意識していた。
なんでこんなところにいるのかわからないが、見た目はかわいいし、
変人だと思っていた挙動も視点が変われば愛らしく思える。
ここしかない、と俺は思った。



29:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:18:17.814ID:Odf1ZQp/0.net
俺は声を振り絞った。

「この後、よかったら飯行きませんか? 俺、車出すんで!」

謎の小窓の前で言った。
アスカが先に交換したので、物を受け取ってじゃあねーとならないように、
アスカが出てきた諭吉さんを財布に入れるタイミングで声をかける。

「ええ……」

死にたくなった。
露骨に顔をしかめられたからだ。

「や、あのさあ……。君の方が出してるよね、今日」
「?」

あ、そういうこと。

「もちろん俺のおごりです!」

ついでに車出すとか言ったことに変な不信感持たれたんじゃないかと、
なんなら現地集合でもいいすよ、場所指定してください!とかてんぱりながら言った。

アスカは少し考えるそぶりを見せる。というか多分本当に考えてた。
うーんとか、唸っている姿を横目に俺は景品を謎の小窓に突き出す。
おばちゃんの声が金額を告げ、諭吉が大挙して現れる。
おばちゃんが諭吉を数える中、

「……んんん。よし行こうか」
「まじですか!?」

窓の向こうのおばちゃんがびくっとする。
え、数え間違えた?この辺は俺の想像。
なんか頭の中独り言でいっぱいにしておかないと落ち着かなかったからいろいろ考えてた。

「車出してくれるなら、お酒はなしだよね?」
「もちろん!」

いかがわしい印象を持たれたくなくて酒なしを肯定。
おや、この娘さらっと車出してくれるとか言ったよな?乗るんか?これはもう、いいってことだよな?
刹那で矛盾する思考を抱えながら俺は、なにかとてつもないことを成し遂げた気持ちになった。


行き先はパチンコで勝った場合の謎の定番である焼肉だ。



30:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:18:50.216ID:Odf1ZQp/0.net
焼肉屋にやってきた俺とアスカ。

すっかりデート気分の俺。

時間も時間なので適当にチェーンの食べ放題へやってきた。

特に店での出来事は語るほどのことはない。というか覚えていない。

俺は努めて冷静にジェントルメンなエスコートをしようとしていっぱいいっぱいだった。

そこでようやく俺はアスカの名前と年齢と職業を聞いた(なんか肉が来るまでに自己紹介タイムみたいな流れになったのだと思う)


「22歳だよー、俺君より年上だからね。ちゃんと敬って」


えっへんみたいに胸をそらしたのが印象的だった。

同時に、まさか目の前の童顔な女が年上だとは今まで思っていなかったので驚きもした。

正直年下だと思っていたが、よくよく考えれば俺がハタチで知り合った場所がパチンコ屋ということは、

同い年か年上の可能性の方が高いわけだ。特に女のこともなればなおさらだ(これは俺の主観。実際どうかはわからない)



31:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:20:11.516ID:Odf1ZQp/0.net
初対面からずっと敬語で話してたのでそのスタンスは変えず、

けれど俺から歳を聞く気はなかったが、弾みで年齢がわかったらタメ口にしようと思っていた。おもっきり宛が外れる。

アスカは年上のお姉さん、という感じではなかったが、抜けてるようで実際そこそこしっかりしている感じはした。

店に入ってから店員へのやり取りもなぜか率先してしていたし、禁煙喫煙を尋ねられた時も「俺君、吸う?」みたいな感じで確認してきた。

「普段はバイトしてるよ。うん、フリーター。休みの日はスロット打ってることが多いなー」

年上でフリーターの女性、というと実は俺には他に同じような知り合いがいたが、その人とアスカでは印象が違いすぎた。

そんで俺の悪い癖。

ちょっといいな、と思っていた女性(推定で年下)が、実は年上でフリーターでパチンカスだった。

その事実は少し自分を鬱にさせた。アニオタな三流大学生の分際で、アスカのプロフィールにちょっと引いたりしていた。

勝手にこの人と付き合うのはどうなんだろう、とか、今から思えば何様だよ、てぐらい上から目線で彼女候補としてのアスカを選定していた。

言いたくないが俺はモテない。自分から行動しないと女っけなど皆無と言っていい。

だから折角美少女(年上でしかも成人してるけどあえてそう言わせてくれ)とお近づきになったのだ。

仲良くしていて損などあるはずがないだろう。

白状するなら下心満載だった。



32:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:20:26.647ID:Odf1ZQp/0.net
俺は数少ない女性との会話に使える話題を慎重に選びながら会話を運ぼうとしたが、

結局まともに話せたのはパチスロの話題だけだった。それもアスカから振ってきたのだが。

「俺君さ、あんまり番長慣れてないよね?」

妄想力のたくましい俺にとってなかなか貴重な音声サンプルを入手した瞬間だった。

しかしながら慣れてないって表現はどうだろう。

「あ、はい、前のが初打ちです」
「だよねだよねー」

とここでアスカがくつくつと笑い出した。

なんか思い出し笑いしてる。口元に手を当てて喉をならしていた。

「でもさ、あれ、本気でやめようと思ったの? さすがに無知すぎるよ俺君w」

うわあ、この人笑うとやっぱりすげーかわいい。もっと蔑む様に言ってください。

「だってさ、設定狙いみたいな打ち方してるのに、直撃引いて引き戻しも見ないでやめるってさw

しかも後もうちょっとでゲーム数もかかるのに、うわー、もーだめ、ごめん笑っていい?w」

とっくに笑ってますがな。

俺はどうぞ、と促す。したらアスカは遠慮するのをやめて、あっはははは、みたいに笑いだした。もう漫画みたいに腹抱えて。

「しかもめっちゃ辛気臭い顔してんのw

この世の終わりかってくらいw

でさでさ、泣きそうになりながらメダル箱に詰めてるし、うわうわ、流石にやめるとかないよね、て思ったら立ち上がるしーw」

俺はこの時人生で初めて面と向かって鼻先を指刺されて笑われた。アスカは笑い人形みたいにけらけら笑っている。

そして俺はその時。

新たな快感の境地を開いたのだ。

話と全然関係ないけど、これがおそらく俺の性癖の目覚めだった。



35:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:27:21.945ID:t3vuN0VYr.net
パチンカスはやはり脳が壊れてるなぁ


39:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:30:30.987ID:Odf1ZQp/0.net
>>35
もっと角度をつけた罵倒で頼む



82:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:16:54.960ID:t3vuN0VYr.net
>>39
こんな子供になってしまって両親が可哀想



85:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:18:31.299ID:Odf1ZQp/0.net
>>82
やめて。そういうまじなやつやめて。土下座するんで許してください靴を舐めます。



36:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:28:23.127ID:pTZyFsz30.net
セ●クスまだ?


40:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:30:55.223ID:Odf1ZQp/0.net
>>36
あるけど、ないよ?



41:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:31:46.909ID:SDWcJkIDM.net
セ●クスのとこだけでいいから早く


43:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:33:54.168ID:Odf1ZQp/0.net
>>41
おk
めっちゃ鬱だからパンツ履いててな



42:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:33:06.647ID:Odf1ZQp/0.net
アスカはその日の俺の道化振りがツボに入ったらしくその後も何度か思い出してはくつくつ笑っていた。
エムとして半覚醒状態になっていた俺だが、ここで主導権を握られるのはまずい、と直感して軽く切り返す。

「あ、そんなに俺のこと見てたんすか?w
もしかしてちょっと気にしてたりします?w」

言って、けっこうどきどきしてた。
何せ自分が好意を持っている相手に探りを入れているのだ(彼女候補としては保留中)

「そりゃあ気になるよー」
「!?」

なん……だと……?

「あの台は結構いい挙動してたしね。あんまり一気に伸びてなかったし、展開に恵まれてない風だったけど。
わたしも移動しようかなー、て思ったけど自分のが当たってたしねー」

いつから異性として気にしていたと錯覚していた?

「しかもさ、俺君が辞めようとした途端、後ろ張り付かれてたよ?
あれ多分打ち子だよね。わたしああいうの、がっついてるみたいで嫌いなんだ」

打ち子、とはスロットの勝ち額で生活をしている所謂プロが雇ってる人間だ。
俺みたいに無知な人間がいい台をやめるとすぐさま確保し、打つか雇い主に献上するかが主な仕事で生きがい。
しかしあんな過疎ホールにプロの軍団とかいるのか?

「どうせだったら君が打つ方がいいからさ。慌てて引き留めたんだよ?」
「それって俺と並び打ちしたかったってことですか?w」
「だってあのまま返したら俺君自殺でもしそうだったもんw」

彼女は精一杯の憐れみを俺にくれた。駄目だこれ、全然男として見られてない。

ふと俺は思い出す。

俺がアスカを気にし始めたきっかけであるあの事件。
あの出来事をアスカはどれくらい気に留めているんだろうか。

ここではもちろんそんなことは聞けず、
後に知ったがアスカは全くそんなこと覚えていなかった。そりゃそうか。

「わたし思ったこと直ぐ口に出すからさー、たぶんその時はそう思ったんだろうね。
……うん。そりゃあスロット打ちながら泣いてる人いたらキモイよ」

それを聞いたとき。
俺は悲しみと快楽の二律背反に支配された。



44:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:34:14.286ID:Odf1ZQp/0.net
焼肉はそんな感じでつつがなく終了。
収穫は、アスカの連絡先(ラインを交換した)と、そしてなんと住所。
もちろん、解散した後アスカをストーキングしたとかそんなではない。俺が紳士的に彼女を自宅まで送り届けたのだ。
てっきり自転車かなんかで店に来ていると思っていたがどうやらバスらしい。バス通いでパチンコ屋て・・・。
車の中で聞いたが俺が飯に誘ったとき少し考えていたのはどうやって帰ろう、みたいなことらしかった。

少し残念だったのは、どこまで行っても彼女にとって俺はパチンコ屋で知り合った他人、という認識で、
全然異性として見られてやしなかったこと。
家(学生が下宿してそうなアパート)の前で下した時も、ありがとー、と言ってぱたぱた走り去っていって、
こうなんというか、ちょっとくらいこっちを振り向いて余韻に浸るとか、その時目が合って頬が赤くなったりとか、

一切なかった。

だからその手の話は全くしなかったし、次回以降のデートの約束なんてできやしない。
当然、彼氏の有無も確認できなかった。
まあなんだ。こんな時間まで二人で食事なんてでかけるくらいだ。きっと彼氏なんていないだろう。
ちょっと迫ればいい感じになれるかもしれない。俺はどこまでも楽観的で下種だった。

だから気づくはずもないのだ。

俺の楽観的な思い込みが、大きな間違いであるなんてことに。



45:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:35:12.611ID:Odf1ZQp/0.net
それからのこと。

俺は数日経ってアスカにメッセージを送った。
本当は翌日、というか別れた後にでもやりとりを始めたかったのだが、
心のどこかでアスカから「今日はありがとー!すっごく楽しかったから、今度またどこか遊びに行かない?」、
なんてメッセージが来るのを期待していたのだ。
帰宅から一時間。アスカからの連絡はない。
俺のモテない男たるゆえん発動。こっちからメッセージを送る。既読つかない。返事来ない。
そして一時間後。なんか「寝ました?」みたいなメッセージを追撃しようとか考えているとついに俺のスマホがバイブレーション。
SMSの通知とかそんなありきたりなオチは用意していない。
送り主には「アスカ」の文字!!!!

『お風呂入ってたーごめん。おやすみー』

こんな感じで終了。
俺は俺で、あ、はい、おやすみなさい。みたいな感じのことを返事した。翌朝確認すると既読の文字。あー、あー、あー・・・・・・。

ちなみにこの『お風呂』という文字にはお世話になった。ふぅ・・・



46:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:35:35.538ID:Odf1ZQp/0.net
そんなことがあったから直ぐに次のメッセージを送れなかったのだ。
まあ、パチンコ屋にいけば高確率で会えるわけだが。
流石に俺も授業とバイトがある。そんなもんすっぽかしてしまえ、と言われればそうなんだが、
なんとなくそんな感じの現実に打ちひしがれてアポなしで顔を合わせることに気後れしていた。

俺は大学の講義中にあーでもない、こーでもない、みたいな感じで文章をひねり出し、
比較的ナチュラルに、かつ紳士的に、そしてエキセントリックにそこはかとなく思いを伝える感じでメッセージを送信した。

『今度いつ打ちに行きます?』
許してくれこれが俺の精一杯だ。原文そのままである。

思い出すと痛かったが、女性とやりとしてることを友達にそれとなく知られたくて、
メッセージの通知に相手が気付くようにスマホは机に放りだしていた。

「え、なになに俺、アスカって誰だよーw」
「ちょwおまww勝手に人の携帯みんなよ」
「えー、俺君彼女ー? どの学部の子ー?」
「だからおまえらwww女とラインしてるだけだろ?w
あんま騒ぐなってwwwまあ、こないだ知り合って、飯食って家まで送った子?」
「fuu!!!! 俺ちゃんやるぅ! さっすが俺、俺たちにできないことを平然とやってのける」
「そこにしびれる憧れるぅーw」

「やめろっておまえら……」

「俺もうそういうの、卒業したから」


こんなやり取りがしたかった。
返信があったのは帰宅してバイトの準備してる時だった。死にたい。

『バイト休みの日(*^-^*)』

うん。それがいつだか教えてもらっていいかな?

『そうなんですね! 何曜日ですか??』
見よ、聞き方を変え、さらに選択肢を与えることでがつがつした印象を消し去る高等テクニックを!!!!

『手帳見ないとわからない』
見ろや。

『見てください(*^^)v』


『めんどい』


ん? スマホ壊れたかな?

『 め ん ど い 』

おーけー死のう。



47:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:35:57.870ID:Odf1ZQp/0.net
アスカは結構口が悪い。
いや、本音が出やすいというか正直というかなんというか。
そりゃあ初対面で「キモッ」とか言われた身である。まあ、だから知ってたといえば知ってた。
本人の名誉のために言うが、口が悪いといっても誹謗中傷が酷いというわけではない。
こう、なんというか言葉を選ばない感じだ。
女子特有の「察してよ」みたいな感じがないのだ。

例文:ごめんっ、寝てた! じゃあ今日また学校でね☆
訳 :いや、変な時間にメールしてくんなよ。めんどいから言いたいことあったら学校で言えや。
   あーでも空気読んでみんなの前では話しかけんなよ?

こういうのがない。
ただ前述の「めんどい」とか「だるい」とか、そういう発言は多かった気がする。
けれど「死ね」とかその類の罵倒はなくて、なんか変にモラルがあるというか、口が悪いてのと矛盾するけど育ちがいい感じがした。

あ、それとさおまえら。

すまんな、さっきの話の続きな?

『めんどい』

になんて返事しようか俺が五時間くらい悩んでいたら、

『木曜日休みだったよ!!(^^)!』

て返事来たわ。

いやー、リア充ですまん。


俺は木曜提出のレポートを音速で書き上げ、山下に提出を頼んだ。
これで完璧だ☆



48:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:36:18.229ID:Odf1ZQp/0.net
さて。

そんなこんなでアスカとプライベートなやり取りをし、
ホールでもちょくちょく顔を合わせては一言二言会話をしていく内、
俺は本格的にアスカのことが好きになっていた。
ただデートに誘う勇気がわかなくて、前回のように勝ったから奢るスタイルで誘おうとして、
その結果俺はパチスロの勝ち方を覚えたのだが、それは本編と関係ないんで割愛する。
とにかく勝つために躍起になった。
ゾーン狙いやら天井狙いやらその他もろもろ。幸いスマホとかいう便利なツールがある時代だ。
物事を調べるならグーグル先生に尋ねればいい。
アスカは相変わらず番長ばっかり打ってたので、たまに並び打ちしたりした。
その頃にはゲーム数解除やモード移行のこともそれなりに知識として持ち合わせていたので、
正直番長を打つ、という行為自体は気が進まないことが多かった。
でもアスカの隣なら・・と、新成人だった俺はキャバクラに通うおっさんの気持ちを理解したのだ。
大人の階段上っちゃったぜ。
しかし俺の思惑はそう上手くはいかず、
やってみればわかるけど、スロットで勝つとなると、矛盾してるみたいだけど打ってない時間が長くなる。
これは本当にうまい人に言わせれば違うのかもしれないけど俺の場合そうだったし、正直マナー違反でさえあるかもしれない。
で、打たない時間が長くなるとどうなるかっていうと、これもまた矛盾するみたいだけど帰るタイミングがなかなか思い通りにいかない。
なので多少の勝ちが出てもアスカとタイミングが合わなかったりとかで、
なんかもう、スロットで勝つことが目的なのかアスカを誘うことが目的なのかわからなくなってきた。

そこでだ。

俺は秘密兵器を投入することにした。

困ったときのヒューマ●コンサルタント、アニさんの登場である。



49:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:36:55.998ID:7gAGLzt+M.net
客観視できてない悲しき童貞か


63:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:45:34.651ID:Odf1ZQp/0.net
>>49
見落としてた。
これは名誉のために弁解する!!
どどど、童貞ちゃうわ!!

ほんとに離れますすいません



50:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:37:23.337ID:Odf1ZQp/0.net
さて。

そんなこんなでアスカとプライベートなやり取りをし、
ホールでもちょくちょく顔を合わせては一言二言会話をしていく内、
俺は本格的にアスカのことが好きになっていた。
ただデートに誘う勇気がわかなくて、前回のように勝ったから奢るスタイルで誘おうとして、
その結果俺はパチスロの勝ち方を覚えたのだが、それは本編と関係ないんで割愛する。
とにかく勝つために躍起になった。
ゾーン狙いやら天井狙いやらその他もろもろ。幸いスマホとかいう便利なツールがある時代だ。
物事を調べるならグーグル先生に尋ねればいい。
アスカは相変わらず番長ばっかり打ってたので、たまに並び打ちしたりした。
その頃にはゲーム数解除やモード移行のこともそれなりに知識として持ち合わせていたので、
正直番長を打つ、という行為自体は気が進まないことが多かった。
でもアスカの隣なら・・と、新成人だった俺はキャバクラに通うおっさんの気持ちを理解したのだ。
大人の階段上っちゃったぜ。
しかし俺の思惑はそう上手くはいかず、
やってみればわかるけど、スロットで勝つとなると、矛盾してるみたいだけど打ってない時間が長くなる。
これは本当にうまい人に言わせれば違うのかもしれないけど俺の場合そうだったし、正直マナー違反でさえあるかもしれない。
で、打たない時間が長くなるとどうなるかっていうと、これもまた矛盾するみたいだけど帰るタイミングがなかなか思い通りにいかない。
なので多少の勝ちが出てもアスカとタイミングが合わなかったりとかで、
なんかもう、スロットで勝つことが目的なのかアスカを誘うことが目的なのかわからなくなってきた。



52:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:38:05.688ID:Odf1ZQp/0.net
アニさんは5つ年上の大学の先輩だ。
俺が2回生に上がるタイミングで卒業した。年齢でわかると思うが2年留年している。
名前は仮称だけど、元ネタは進撃の巨人のアニ。
単純に見た目があんな感じの女性で、イメージするなら、アニがベルトルトの伸長を獲得したらこんな感じといった具合。
想像できなかったらぐぐってくれ。

知り合ったきっかけはアニさんがゼミのTAに来ていたことだ。
アニさんは見た目DQNだし、TAとか柄じゃないのは明らかだが、なにやら卒業の絡みで渋々TAを引き受けたらしい。
今は卒業して自由人をしている。
働いているのかどうか怪しい。しかし生計は成り立っている。お金とかどうしてるんですか? て聞いたら、
「身体売ってる」て即答しそう。まあ、アニさんはそんな人。

そしてこの人は校内外を問わず凄い顔が広い。
一度ひょんなことからアニさんの携帯の着信に出たことがあるが、聞いたことない言葉喋ってる人がかけてきていた。

アニさんは在校生の一部ではカリスマみたいな扱いになっていて、よく人の相談に乗っている兄貴肌な人だった。

俺はいろいろあってアニさんとそれなりに仲が良く、嘘みたいだがアニさんの自宅に何度か出入りしたこともある。



53:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:38:52.418ID:Odf1ZQp/0.net
前置き長くなったけど本題。

俺はアスカとの仲を進展させたくてアニさんにラインした。

『アニさん、相談いいですか?』

返事は半日後くらいの夜中。俺が珍しくバイト夜勤のときだった。

『発情期?』

まて、その発想はおかしい。

『違いますよ汗
ちょっとお話したいことがあるんです』

『回りくどいのとかうざいから、本題から言えよ』

この人はこの人で口が悪い。

俺は気になる女性がいてその人といい感じになりたいという旨のメッセージを送った。
するとアニさんはわかった。話聞いてやるから家こい、とのこと。
夜勤であることを伝えたところ、じゃあ次の日の夕方でどうだ、とのこと。
奇しくもその日はアスカがホールに現れる日(俺がアスカにラインを送るとき、だいたいその話題)、
しかし背に腹は代えられん。
俺は断腸の思いで了承し、バイトが終わって一眠りしてからアニさん宅を訪問した。



54:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:40:18.865ID:ViGz/Noqr.net
こいつぁやべースレ開いちまったか


58:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:42:55.464ID:Odf1ZQp/0.net
>>54
ふふ・・・変化球も嫌いじゃないですよ?
出来れば物理でいじめてほしいんですが・・・?



55:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:40:43.146ID:Odf1ZQp/0.net
「ゴム買ってきた?」

すまん、本当に言われたんだこれ。
ピンポン鳴らして扉開いたと思ったら開口一番だ

俺あたふた。手にはコンビニの袋を持ってたけど、これは差入れというかお土産で、適当にお菓子とか飲み物かってきたものだ。
それを指して冗談を言っているんだと思い、首をふるふる。
アニさんは舌打ち。何故だ。

「あー……あったかなー、あった気がするけどどうだろなー」

みたいなことを言いながら玄関から部屋に戻ってく。
俺も後ろついてく。
アニさんは自分のバックやらベッド周辺やらをごそごそ。
ちなみにアニさんの服装は黒いタンクトップとスウェット。おもっきり部屋着。
前かがみになったらタンクトップがめくれてパンツ見えてた。

「まあいいや、めんどくせ。おい俺、うまくやれよー」
「いや、なんの話すか」
「なにて、ナニだろ。したいんだろ?」

この人の思考回路がわからない。



56:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:41:30.827ID:Odf1ZQp/0.net
「だってさ、女落としたいて、おまえ無理だろ。鏡見ろよ。変な夢見る前に性欲満たしてやれば諦めつくだろ」
「すいません、アニさん、この部屋首吊り用のロープとかないですか?」

年上に罵倒されるという意味では同じでも、アスカのそれとはまったく異なっていた。アニさんのそれは非常に心をえぐる。

「ラインのやりとりスクショしてきたけど、どう見ても脈なしだろ。おまえ遊ばれてんだよ。忘れろ童貞」
「どどど、童貞ちゃうわ!」
「あー、あたしが喰ったんだっけ?」
「……」

アニさん絡みの話はどうしても創作臭くなるが、これはマジである。
俺が初めてアニさんに相談事をしたのは大学に入って間もなくできた彼女のことで、
当時経験のなかった俺はそれを気にしてアニさんに相談したのだ。
じゃあとりあえず恥かかないように教えてやるよ、みたいな感じでそのままアニさんと寝た。これなんてエロゲ?



57:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:42:05.557ID:Odf1ZQp/0.net
「あんときは酒飲んでたしあんま覚えてないんだわ」
「はじめてだったのに……ヒドイッ!」
「あほか。酒でも入ってないとおまえとなんかできるか」

なんでこの人、言葉の暴力で俺を殴殺しようとしてるの?

「まあいいや」

よかねーよ。

「とりあえずな、俺。その女はやめとけ」
「なんでですか?」
「どう考えても地雷だろ、そいつは」
「……」
「いいか? 22てことは大学出たてだろ? そんで趣味がパチスロのフリーターて、やべーやつじゃん」

あんたが言うなよ。

「おまえさ、目に見えてる地雷が転がってるところ、匍匐前進で進むつもりか?」

しかも、とアニさんは続ける。

「性格もやべー。おまえの話しか聞いてないけど、おまえ曰くその女は天然なわけだろ?」

確かに天然といえば天然かもしれない。

「あのな。女の天然てのは3種類だ。ただのアホか、計算高いアホか、メンヘラ。
ただのアホなら救われるわな。ただのアホだから、22でフリーターで趣味がパチスロでおまえなんかとラインしちゃってる、
頭が残念な女でしかないから誰も傷つかない」

俺は今ものすごく傷ついてますよ?

「けどさ、世の中ほんまもんのアホてのは意外といない。特に女はな。曲がりなりにも一人で生きてんならそれなりに計算はできる。
だからその女も計算高いアホか、メンヘラの可能性が高い。
前者だとして、じゃあどんな計算でおまえとつるんでるんだ? メリットねーだろ。まあ、デメリットもねーのかもしれないけど。
ただまあ、無駄なわけだ。女てのはな、ロマンチックでない無駄は嫌うんだよ。だからそいつが計算高いアホの可能性は却下。
だったらもうそいつはメンヘラな訳だろ? おまえさ、その女とかかわった挙句に腹割かれて死ぬのは嫌だろ?」

いや、その理屈はおかしい。なんでナイスボートエンドなんだよ。

「はあ……。ま、あたし個人の意見だからいいけどさ。けど実際、その女とは進展ないんだろ?」
「いや、だからアニさんに相談してるんじゃないですか……」
「あたしはドラえもんか」

なんだそのつっこみ。確かにアニさんは胸がない。寸胴という意味ではスタイルのいいドラえもんだ。
おっと誰か来たようだ、はいはい今開けますよ……ぎゃああああああああああ。



59:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:43:13.663ID:Odf1ZQp/0.net
結局、アニさんからは有益な意見を得られなかった。

「っせーな、あたしにグダグダ相談してる暇あったらドライブでもなんでも適当に誘えやああ!!」

アニさんがこんな感じでキレて相談会終了。
こんな人だけど頼りになる人なんだマジで。だから俺は落胆した。
頼みの綱のアニさんがこれでは、俺はどうすればいいんだ。

そして帰り際。

「おい」

玄関で呼び止められる。

「なんすか?」

もういいよあんた。俺帰ってげんなりしてるマイサンを慰めないといけないんだよ。

「ケータイ、鳴ってる」
「はあ? や、鳴ってないすよ」
「鳴ってた」
「なんで過去形なんすか」
「あたしがさっき鳴らした」
「はい?」
「まー、なんだ。いい案があったからラインで送ってやったんだよ。見てみな」
「! ……え? 通知ないすけど」
「ほんとか? ちょっと開いてみろ」

俺、携帯のロック解除。ほら見ろラインなんてーースマホひょい。
俺唖然、あまりの早業にリアクションが追い付かない。
アニさんは「あー、こいつかー」とか言いながらなんか操作してる。

「ちょっとなにしてんすか!?」
「ん? ほれ」

向けられたスマホの液晶にはアスカに送信済みの「ドライブ行きましょう。いつがいいですか?」のメッセージ。
待てこらおいおいおいおいおいおい。

「いや、なにこれ、どういうこと!?」
「『ドライブ行きませんか?』だとかわされる可能性が高いだろ? こういう時は断定した方がいいんだよ」
「そういう意味じゃなくて!」
「あー、人助けしたら疲れたわー、あたし夜に予定あるから寝るわ。おまえもう帰れ。じゃな」

スマホを押し付けられてその勢いで外へ追い出される。靴は、アニさんが蹴飛ばしてきた。

ちょっと待てよおい、どうすんだよこれ。
とにかくこの後のことをシュミレーションしないと……
ばたんと扉が閉まると同時に、こんな時に限って俺のメッセージには、

『既読』

の文字が。

アニさああああああああああん!!!!!!!!!!

俺は閉ざされたドアの向こうに新しい何かを求めて全力でノックした。



60:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:43:32.937ID:Odf1ZQp/0.net
『なんで?』

これがアスカの返事である。
なんで、て言われても。

『あなたのことが好きだからです。もう、パチンコ屋だけでは我慢できません。
僕のレバーも……オンしてくれませんか?』

言えるわけねえよ。

どうすればいい?
アニさんは電話しても出ないし、部屋の前でばたばたしてたら隣の人が不審者を見る目を向けてきたし。
自分で解決しないとだめなの? これ。
いやマジで誰か助けて。
この当時安価とか知ってたら投稿してたかもしれない。
いや待て、焦る必要ないじゃないか。
素直に話せばいいじゃない。

『アスカさんのこと、知り合いに話したらなんか悪ふざけでライン送られて……。ごめん、迷惑だった?』

結構勇気を出して送った。
どうよこれ、完璧だろ?
下心は隠しつつ、けどワンチャンあるんじゃないか? という可能性を残すこの文章!!!
そしてさり気なく敬語を忘れて二人の距離を縮める。イッツパーフェクト。今日から俺を魔術師と呼べ。

『あ、そか。わかった!(*^^)v』

会話終了。



61:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:43:47.707ID:Odf1ZQp/0.net
次に俺が行動を起こすのにはやはり時間が必要だった。
流石の俺もこれはもうアスカに脈がないことを悟り、
でもなんかこう諦められず、会えない時間が愛を育てるとはこのことだろうかとか思ったりした。
同時に『恋とは一人でするもの、愛は二人で作り上げるもの』みたいな言葉も思い出した。
二人で愛、作れてるのかな? ねーだろ。
どうしようもない自己嫌悪の中、多分、一週間くらい空いただろうか、俺は再びアスカにメッセージを送信。
相変わらず、情けないがいつもの文面だ。
ややあって。

『明日』

やけに短い短い返事。
俺はもうこないだのことで下心を見抜かれて距離を置かれているのだろうと察した。
アスカだって女だ。
自分で回りくどいことをしない人、と言っておきながらあれだが、これはもう完全に、
「あんたをそういう目でみることはないから。傷つかないようにもう諦めて?」的な奴だろう。
明日、という返事に「わかりました」とだけ返し、結局返事はなかった。
次の日、俺は気怠さで講義をさぼった。
家でゴロゴロして、しかしパチンコ屋に行くこともない。
夕方くらいまでずっとスマホゲーをしていたが飽きて携帯を放り出した。
もう寝よう。バイトは休みだしすることもないし。
どれくらい時間が経ったかわからない。ほんの少しだった気もするしそうでない気もする。
まどろむ俺の耳元でスマホが短くバイブした。

『ごめん、今日いけない』

アスカだった。



64:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:46:19.766ID:7GarnF1EM.net
変なやつにストーカーされて可哀想だな、アスカ


69:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:05:22.849ID:Odf1ZQp/0.net
>>64
ほんまそれな



65:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:52:11.832ID:1s0yamZIa.net
喉の奥からこみ上げるものを感じながら、
『どうして?』
と送った。もしかして病気になったのか?それはそれで心配だが、まだいい。
脈がないだけじゃない、アスカに嫌われたか?

だが、すぐにその答えが出た。
『彼女とエッチする(*^^)v』

・・・彼女?
レズ?
頭が真っ白になるのと同時に、何故か下半身に血液が集まる。
俺も混ぜてください、という一言はさすがに送れない。

そんなことを考えながら家を出ると、アニさんが現れた。



68:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:04:36.865ID:Odf1ZQp/0.net
>>65
マジか。
俺3Pとか未経験だから、是非その展開に期待したい。
けどアニさんにはもうたたないわw



66:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 11:55:20.846ID:f+mklGn7a.net
おもろいよ、すき。
アニさんともヤッて。



70:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:05:48.247ID:Odf1ZQp/0.net
>>66
すまん、アニさんとはやらないw



71:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:06:20.200ID:Odf1ZQp/0.net
本格的に終わりを感じた。
俺は始まってもいない恋が終わったことを実感して胸の中がどろどろになっていくのを実感する。
こう、悲しいやら情けないやら、叫びだしたくなるのにそうしようとしたら泣きそうになる感じだ。
うんまあ、鬱だよね。
もう画面を見るのも嫌だったが、そこはモテない俺、未練たらたらに、

『あー、バイト? なんか予定できた?』

みたいなメッセージを送った。
明らかに詮索してるくせに、俺全然気にしてないよ、て感じで余裕を見せたかった。
するとすぐに返事はきた。

『ごめん』

意味わかんねえよ。
ここまでくると矛先のわからない理不尽な怒りが沸いてくる。
それを向ける先は決まっている、アスカだ。

俺は初めて、

ア ス カ に 電 話 し た 。



73:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:07:43.264ID:Odf1ZQp/0.net
コール音が数秒。
冷静になっていく頭。
襲ってくる後悔。
電話してどうすんの?
遠回しに振られてる相手に告白でもするつもりか?
どうせそんな度胸もないくせして、勝手に空回って電話して、なにがしたんだよ。
あー、もういいや切ろう。切ってアスカのアカウントは削除しよう。もうあの店にもいかない。

『……もしもし?』

なのに、自暴自棄になっていた俺を一瞬で冷静にさせるような、アスカの声が応答した。

『……ごほごほ』

咳払い、だったと思う。
アスカの声は明らかに普段の元気がなくて……というか、もしかして風邪?

「あ、すいません、なんか様子変だと思って。風邪ですか?」

すらすら嘘が出てくる自分が嫌だった。

『んー……たぶん。なんかガッツでない。今日はうちで寝てるんだー……』

それはいけない。僕のビックマグナムで点滴を……

『どうしたの、俺君。……あは、なんか久しぶりだね。最近どうしてたの?』
「や、なんか忙しくて。さみしかったすか?」
『あはは。なにそれ』

嘘でも肯定してくれるとテンション上がるんだけどな・・・。

『とにかく今日はごめんね。もう家から出るとか無理って状態なんだ。熱測るから切るよ?』

なんか切ろうとする理由が妙に斬新だった。

「ちょっと待ってください」
『?』

反射的に引き留める。相手体調崩してんのにそういうところが経験不足というかがっついてるというか。
情けなかったけど自己嫌悪に陥るのは後だ。
ここで一歩踏み出さないと本当に終わってしまう。

勝手に一人で始めた恋で、
勝手に一人で終わらせようとしていた恋だけど。

まだ終わってないのなら、みっともなくてもしがみついていたい。

全部想像通りで、アスカは俺のことなんて全く興味なくて、うざくて、それで遠ざけようとしてるんだとしても、
俺はまだ自分の気持ちをちゃんと形にしてない。



74:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:08:09.140ID:Odf1ZQp/0.net
だから。

「今から家行きます」
『……』
「すぐ行くんで待っててください。しんどいかもしれないけど寝ないでください」
『え……、ええ……?』
「途中でなんか、おかゆみたいなの買ってきます。家出られないなら食べるもんないでしょ?」

貧乏学生の俺の尺度だった。

とにかく。

ここで動き出さないと、本当に終わってしまう。
始まる前に終わってしまう。
好きだって気持ちが免罪符になるなら、もうどうにでもなれだ。

「車出すんで、じゃあ!」
『ちょ、待って俺くn――』

切った。
もう一方的に電話切った。

玉砕することになるだろう。
きっとこんな最悪な形での告白は実らないだろう。
だけどちゃんと終わらせられるなら、それでいい。

たぶん、俺の人生最大の暴走だったと思う。



75:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:09:01.458ID:Odf1ZQp/0.net
――ゴム買ってきた?

途中コンビニに入って、俺はアニさんの言葉を思い出した。
生娘のように顔が赤くなる。鏡なんてみてないけど解る。うわ、ピュアボーイかよ。一応これでも非童貞だ。
一人でぶつぶつ言いながら俺はなにか食材になるものを探す。
おかゆて言っちゃったし……米……は、これでいいかサトウのごはん。で、ネギと、卵。塩と梅干とか……いや、塩はあるか。
こんなことをうわ言みたいに繰り返した。

そして俺は思い至る。

アスカ、もしかして生理じゃないの?
あー……だったらどうしよう、俺。
これで押しかけて、マジで最悪じゃん。声すっげーしんどそうだったしさ。
なにもかもが後になってからいろいろと思考が追い付いてくる。
ここで頓挫して帰宅する言い訳も何通りも思いついた。
けど、さすがにここで引き返すほど俺はへたれではない。本当はそうかもしれないがこの時ばかりは気持ちを振り絞った。

よし、行こう。

行ってちゃんと気持ちを伝えよう。

何故か告白を前提にして行動する俺だった。



76:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:09:29.709ID:Odf1ZQp/0.net
補足だが。

家でアスカとの通話を切った後、一方的に切ったにもかかわらずアスカから連絡はない。
これは暗に来てもいいよ、ということなのか、それともそれすら出来ない体調なのか。

コンビニでの買い物を終え、少し運転。到着。近くでコインパーキングを探して駐車。
歩いて5分もかからないくらいの距離にアスカのアパートはあるが、
道のりはやけに遠く感じた。

で、思い出す。

俺、アスカの部屋知らねーわ。

電話をかける。

出ない。

おいおい。

メッセージを送る。

『つきました。今、出てこれますか?』

アニさんに見せたらぶっとばされそうな文面だ。疑問形禁止。

もしかしたらこのまま返事がないかもしれない。いや、これもうすでにブロックとかされてる?

ネガティブな想像がめくるめく中、突如震えるスマホ。しかも、アスカから電話だ。

「あ、もしもし……?」
『俺くーん……どこー……?』

アスカの普段の元気を七割引きにした声が端末越しに聞こえる。

『あー、いた。……ほらここー、ここー』

オートロックの二十扉。ガラス張りの奥。アスカを発見。

『入ってきてー』
「いや、オートロックでしょ? 開けてもらえないと入れないすよw」
『あー、そかそかw』

どうやら本気で言ってたらしい。
アスカに施錠を解除してもらい、中へ入る。
なんかいろいろぐだぐだになったけどそこは割愛。



77:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:09:50.063ID:Odf1ZQp/0.net
アスカの服装は、パジャマ。

それはもうパジャマだ。

ひまわりみたいな色と柄のパジャマで、なんというかすごく無防備。
アニさんの部屋着姿とパンツではマックスにならなかった俺の相棒も、
アスカのそんな姿には迸る熱いパトスを抑えきれなかった。・・・ふぅ。

普段はパーカーで意識してなかったけど、アスカは体格の割に胸がでかい。
その存在はパジャマのぼたんを窮屈そうに押し上げていて、ちょっと無理な体制をとろうものなら、
遠慮なしにはじけ飛んでしまいそうだった。見てはいけないと思いつつも、俺はその豊かなふくらみにくぎ付けになる。
よくよく考えると、パジャマなんだから下着はつけていないんじゃないか? などと考えると、
双丘の頂点がわずかに尖って見えて・・・

「……えっち。きもい」

!?

初対面の再現かと思った。
アスカの冷ややかな視線。そして蔑むような眼。うっ・・・ふぅ。

言い忘れたが現状。

アスカとともに部屋に入り、ベッドに倒れこんだアスカに布団を被せていたところだ。
首元までふとんを持って行ったところで俺の眼球は扇情的な女性の肉体に魅了され、先の回想に至る。
この至近距離なのでばれたらしい。

「……すいません」
「あんまり近くに寄らないで。わたし寝るからー……」

拒絶というより、当たり前の恥じらいというか少し冗談交じりな気がした。
まあ、男部屋に上げて寝るっていうくらいだから、拒絶も何もないんだが。

アスカは本当に寝てしまった。

俺はアスカが目覚めた時ように買ってきた材料でおかゆでも作ろうかと思うが、
勝手にキッチンを使うのはどうだろう。冷蔵庫開けることになるかもしれないし、
食器類も触らないといけない。
目が覚めてから許可とってした方がいいんじゃないか?
そんな考えが俺を尻込みさせた。
アスカが静かな寝息を立て始める。起きるのはいつ頃だろう。

意中の女性と、部屋で、二人っきり。

とりあえず俺はトイレを借りた。

神に誓う。

アスカ本人には指一本触れていない。



78:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:10:12.961ID:Odf1ZQp/0.net
アスカの部屋は、まあ、女の子の部屋? て感じではなかった。
片付いている、というよりは物が少なくてさっぱりしてる。
ベッドと透明なアクリルのテーブル。小さい本棚とその上にテレビ。CDラック。
リフォームの匠が機能的に改造して片づけました、みたいな感じだ。こう、必要最低限のものが所定の位置にある、という感じ。
壁に立てかけてあるギターが少し気になった。アスカて趣味でギターとかやるのか? 軽音とかやってても違和感ないけど。
おもむろにCDラックに近づき一枚手に取ってみる。アスカとの会話のネタにでもなればいいと、どんなアーティストのものかと興味があった。
初めに手に取ったのは無地のCD。100均とかで売ってるCD-Rて感じだ。vol1と書いてある。気になって隣、その隣も見たが案の定vol2、vol3、vol4と続いた。
ヒント。立てかけのギター。
もしかして自分で演奏した曲か?
気になるが真偽はこのCDの中にしかない。
少し部屋を見渡したが、コンポとかは見当たらない。となるとPC……だが、さすがに勝手に起動するのはどうだろう。

お?

無地オリジナルCDに紛れて、押忍!番長のサントラがある。あー、好きだもんね、アスカ。
なんとなく笑いが出た。少しアスカを知れた気になった。そりゃあ勝手に部屋探索したらね。うわ、マジモンのストーカーみたいじゃん俺。

洒落になんねえ・・・。

それからしばらく携帯弄ったりとで時間をつぶしているとアスカが目を覚ました。

「んあー……」

本当に言うから驚きだよ。
アスカは顔をこちらに向ける。

「え……? なに、なんで……?」
「?」
「なんで家いるの!?」

軽くパニックを起こしたアスカを宥める。少し元気になってたみたいだ。
とりあえずここまでのやりとりを説明する。ラインのやり取りとかも見せて。
するとアスカはあー、とか、うー、とか言いながらそういえばそうだったな、みたいに納得した。
いや、理解したって感じで納得はしてなかったかもしれない。

「あっ!」

がば、と目の前に透明人間がいて、そいつを抱き締めるみたいな動作をアスカが見せる。

「……ちょっと、出てて。着替えたい」

赤面したアスカという世にも奇妙なものをもっと網膜に焼き付けておきたかったが、
俺は背中を押されてトイレに監禁される。

「わたしがいいって言うまで出てくんなよっ!」

乱暴に言われ俺は素直に従う。
おっといけない鍵を閉めなくては。

なぜかって?
万が一アスカが外から開けてきたら大変なことになるだろう常考?



79:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:10:32.403ID:Odf1ZQp/0.net
さて、お互いにひと段落ついて、
まあ、いろいろ話した。
先に言っとくが俺はこの日告白はしていない。
出来なかった。

アスカは自宅で電話した時に比べれば元気になっていたように思う。
俺が飯用に材料を買ってきたことを言うと、じゃあ、作るねー、と一人で始めてしまった。

「なんじゃこりゃー! これ、おかゆぐらいしか作れないじゃん!」

だからおかゆ作るつったろ。病人は黙りなさい。そして手伝わせろ。新婚みたいにさせろ。

「わたしは病人だけど、俺君は健常者でしょ?」

健常者て。
こっちのことを気にしてくれたのがうれしかった。
ちなみに手伝うという俺の進言は、お客さんは座ってなさい、というアスカの一言で却下された。

待ってる間退屈だったので、アスカにPCを貸してくれと頼んだ。
二つ返事でいいよーとのことだったので少し複雑な感じがしたが、
念のため、例のCDを再生していいか聞いた。

「……ん。……いいよ。イヤホンしてね」

さっきのやり取りがあっただけに少し歯切れの悪さが気になった。

CDの中身は予想通りオリジナル?の曲だった。
なんかこう、市販品とは違って自分たちで録ったものをCDに書き込んだ、て感じの音だ。
予想と違ったのはボーカルが男だったこと。
俺はてっきりアスカが歌っているものと思っていた。

これ誰?とか聞けるはずない。
なんか悶々とした。

だってのに。

「いい曲でしょ?」
「あー……はい。はじめて聞きました。結構有名なバンドですか?」
「ミラーマインド。知ってる?」
「あー……ツレがなんか言ってた気がします。俺ははじめてききました! 結構売れてるんですか?」
無論、そんなもん初耳。こういうの知ってる方がオシャレな感じがして食い下がった。

「ううん。デビューしてないから、マイナー……ていうか、知ってる人しか知らないバンドw」
やばい墓穴だ。

「そすかw あー、ライブハウスとかの物販で買ったんですか?」
「……」
「え……?」
「直接もらったよ?」
「知り合い……なんですか?」
「彼氏」
「……なにが?」
「ヴォーカルの人」



80:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:12:55.283ID:Odf1ZQp/0.net
視界が弾けた。
頭が真っ白になって気付いたら俺は自宅にいた。
明け方頃だった。
一気に情報が入り込んできて、整理が追い付かなかった。

「彼氏」

さらっとアスカは言った。
今までなんでそんなこと考えなかったんだろう。
いるよねー……そりゃあ。彼氏。
アニさんの言うとおりだよ。これパターン2だわ。計算高いアホだわ。
え? 俺? みっともないアホだよ。

一人で舞い上がったアホそのものだろ。今度こそ完全に終わった俺の恋。

――彼氏
何度も何度もその瞬間が目に焼き付いて離れない。
苦笑したみたいにわらぅて、困ったみたいに小首をかしげていた。
少しだけ哀愁を感じさせる表情で、陰があるのを取り繕って無理に明るくふるまう感じ。
気を使ってくれたんだなて、俺でもわかった。
アスカ、いや、アスカさんは俺の気持ちとか当然気付いてて、
そんで傷つけないようにて気を使って、
だけどこれ以上はもう駄目だなって、お互いの関係をはっきりさせたんだろう。
だとしたら俺は……ガキだ。

情けないよりも、みっともないよりも、恥ずかしいよりも、バカでアホよりも先に、
どうしようもなく、ガキだ。

別に、年齢は2つしか違わないけど、
でも、なんかこう、自分の中にあるものに差を感じて苦しかった。

アニさんに一言。

『彼氏いました』

とライン。
返事は少ししてから返ってきた。

『バーカ』

知ってるわそれぐらい。

自分が抜け殻になるのがわかった。
結局アニさんの言うとおりだった。忠告してくれたのに俺バカだわ。

『バーカ』

アニさんのメッセージ二度目に見るとなぜか少し笑えた。

やかましいわ。



81:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:15:05.865ID:7GarnF1EM.net
セ●クスはよ


83:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:17:05.612ID:Odf1ZQp/0.net
数日後、俺、再びアニさん宅へ訪問。
言いたくないけど言う。
やらせてもらうつもりだった。
もうこの行き場のない思いをどんだけ下種な方法でもいいから消化したかったのだ。
アニさん美人だしさばさばしてるし、頼めばさせてくれるだろう。
今から思えばマジで最低だった。若気の至りというのか? 恥ずかしいし情けない。

俺は泣きながら腰を振って、ただただ溢れてくる快感に身を任せた。

いっそ感情なんて溶けてなくなってしまえばいい、全部残さずいろんなものと一緒に吐き出してしまえばいいと思った。
そしてアニさんの中で果てた俺はもう一生分の感情を垂れ流して、
無駄に長い人生を浪費して既定路線みたいな一生を終えましたとさ。fin



86:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:19:07.513ID:Odf1ZQp/0.net
「やんない」

アニさん、一閃。

それは差し入れた缶ビール三本をアニさんが飲み干したタイミングでのことだ。
ちなみに俺は素面。これからって時に酔っ払ってられるか。
で、酔いが回ったのか僅かに顔を上気させているアニさんを床に押し倒し、
強引にキスをした。
そのまま舌を入れて口の中をかき回してやろうと思ったが、
アニさんは唇をきゅっと閉じたまま受け入れてくれない。
仕方ないからアニさんの薄い胸を揉もうとして手を伸ばし、手のひらが触れたところで言われた。

さっきまでと変わらずほんのり赤い頬。
俺のせいで乱れた服装。へそ丸出しのアバンギャルド。
明るい色の髪が放射状に散らばっている。

無表情に、アニさんは俺を拒絶した。

瞳だけが真剣で、そこには敵意とか、嫌悪とか、憐憫とか、
そういう感情は一切なかった。

で、俺、アニさんに突き飛ばされる。

壁に頭をぶつけて視界に星が飛ぶ。

アニさんの攻撃はそれだけで終わらない。

がっ、と無遠慮にアニさんは俺のズボンを脱がせる。
はじめベルトを締めたまま脱がそうとするものだから、
俺は少し部屋の中で引きづられた。
で、パンツも奪われ下半身丸出し。
当然アニさんは止まらない。
もともとそのつもりだったはずの俺は、にもかかわらず微力な抵抗をする。
アニさんの手首をつかんで、「やめましょうよ」というと、

「はなせ」

マジこわったので従った。



87:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:19:41.913ID:Odf1ZQp/0.net
アニさんは自分の手に唾を垂らす。すげー扇情的。AVとかで見たことあるけど、
女の人が舌をベローと出して白っぽい唾が糸を引いて落ちていく光景。
目の前でそれを見て官能的な気分に苛まれた。
湿ったアニさんの手が俺のものを握りこむ。
そして数度、手のひらで上下にしごかれ、
そのあとは滑らかな動きで先端を刺激された。

で、終わり。

吐き捨てるみたいにアニさんは言う。

「気持ちいいか? 良くないだろ。そういうことだ。だから、やんない」

俺のものは、生理的にはばっきばきだったけど、
言われてみれば確かに、気持ちよくはなかった、のかもしれない。
目の前で繰り広げられるその行為が、まるで他人事のように感じられた。
こーんと、ティッシュケースの角が額に直撃する。

「煙草吸ってくる。それ、自分で処理してパンツはいてろ」

そう言って上着を羽織るアニさんは既に煙草に火をつけていて、
めちゃくちゃかっこよかった。
颯爽と去っていく背中を眺めながら俺はもう涙が止まらない。
自分の中の、最後の防衛線が決壊したみたいだった。
俺ははじめてまどマギを打ったあの日のように止めどなく溢れる涙を抑えきれず、
号泣しながら一人で抜いた。



88:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:22:15.745ID:S7q/YGnFa.net
わろた


93:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:41:11.385ID:Odf1ZQp/0.net
>>88
もっとさげすむように!!!



91:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:40:24.097ID:Odf1ZQp/0.net
「落ち着いたか?」
「……おかげさまで」

恐ろしかったのはタイミングの良さ。
アニさんは俺が一人で果てるのとほとんど同時に部屋に戻ってきた。
この人何なの? エスパー?
賢者タイムも半ばに俺はアニさんに向き直る。

速攻で土下座した。

「すんませんでしたッ!」

我ながら最低だと思ったからだ。
確かにアニさんは粗暴で、口が悪くて、DQNで、デリカシーがなくて胸もないが、
生物学上は女性なのだ。だから俺は性欲のはけ口にしようとしたわけだし、
でもそれは男として最低だ。あれ? 自分で言っててこれ反省してる?

「あたま上げろ」

蹴られた。
こう、足の甲で額を蹴り上げられた。

「痛ッて……!」
「くはははは」

何この人、ドS?
俺最近エムに目覚めそうだったけど引っ込んだわ。

「あー、情けねえ顔。今ならしてやってもいいけど?」
「……いいすよ。アニさん胸ないし」
「無い胸揉んだ手でしこしこやってたのは誰だーおい」
「ちょっと待て、なぜ俺が使用した手を知っている」

そんな馬鹿みたいな話を少しして笑って、飲みなおした。
今度は俺も飲んだ。
困ったことに運転できなくなり、その日はアニさん家に泊まった。

アニさんは、たぶん俺が寝落ちするまで起きてた。
起きて、うわ言みたいな俺の話を聞いてくれてた。
いろいろ罵倒されたり、馬鹿にされたりしたけど、
当初の目的通り自分の中の淀みは全部吐き出せたと思う。
初めに定めた着地点と違ったのは、いろんなものを吐き出したけど、
それでも俺の中の大切なものは残ったこと。こういう詩的な言い方は臭いけど、
人を好きになる気持ちはなくさずに済んだと思う。

「アニさーん、好きです……前提を結婚で、突き合って♂くださーい」
「くはははは。よっしゃよっしゃ越後谷温泉な」

こんな感じのことを回らない呂律で言っていた。

目が覚めるとアニさんはもういなかった。
部屋のカギと書置きが残っていて、
閉めたらポスト入れとけ、という一文と、
昨日のごみはてめーが片しとけ、という一文。

俺は全身全霊で部屋を掃除し、帰宅した。



96:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:43:40.831ID:Odf1ZQp/0.net
やけに晴れやかな気持ちだった。

アスカのことは、ふんぎりがついたとは言えないけど忘れられそうだ。

それよりもこの数日大学をさぼりっぱなしにしていたことの方が頭を悩ませる。

マイフレンドたちや密かに俺に思いを寄せている女子たちが待ってる。

「日常に帰ろう」

そう言って俺はすべてを胸にしまい込み、
明日からの日常を思った。

思えば夢みたいな日々だったじゃないか。
大好きなまどマギがスロットになって、それが思いのほか完成度が高くて泣いたら人を好きになった。
実にドラマチックな体験だ。

夢の終わり、最後に俺は自分の物語に蛇足をつけた。

そうだ。アスカの彼氏がどんなやつか見てやろう。

マイナーとはいえ、知ってる人は知ってるみたいなバンドと言っていたし、
ネットで検索すればHPとか動画とかが上がってるかもしれない。

よせばいいのに、俺はアスカに聞いたバンド名を検索欄に打ち込んだ。

俺の惚れた女を骨抜きにした野郎だ。さぞかし色男に違いない。

素晴らしきかな3G回線。速攻で液晶に検索結果が映し出される。
ほうほう。動画も上がってるじゃないか。どれーー

『【追悼動画】ミラーマインドよ永遠なれ・・・!』

はい?



97:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:44:37.708ID:Odf1ZQp/0.net
一旦書き留めた分ここまでです!
さすがに会社じゃ書けないんで続きは時間空きます・・・。

読んでくれてる人!質問ください!



98:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:46:13.151ID:1s0yamZIa.net
>>97
アニさんに俺も手コキしてくださいと頼んでください



99:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:48:14.372ID:Odf1ZQp/0.net
>>98
たぶんお金出したらしてくれるんじゃないかな。



100:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:49:53.019ID:1s0yamZIa.net
>>99
金払うと立たないからいいわ・・・
食事奢るとかならするけど



101:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:50:02.710ID:MlcL5Uzf0.net
何年前の噺?


108:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 13:29:29.174ID:Odf1ZQp/0.net
>>101
まどマギ導入なんで、2013年ですね。
曖昧で申し訳ない



102:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:51:36.520ID:f+mklGn7a.net
確かまどマギは導入当初見た目のミルキーさから
少ししたら誰も恥ずかしくて打ってなかったよね
それが気にならない奴が回し続けて
「ちょっと待てよ、おもろいし出るやんコレ!」
ってなったのが一年後。一旦下げられて再燃して
覇権を獲った機種の代表や



103:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 12:53:54.538ID:+Ij5xS0N0.net
>>102
俺もその口だわ
萌えスロとかキモ→面白い→アニメも面白い
今では立派なまどカスです



110:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 13:42:26.886ID:Odf1ZQp/0.net
>>102
あんたとはいい酒が飲めそうだ。
スロカスですか?



119:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 14:01:36.563ID:Odf1ZQp/0.net
ふと思ったけど、アスカてメンヘラじゃなくてDQN?池沼の方がしっくり来るのかな・・・
後書き始めてアスカてめっちゃ違和感覚えてきた。そもそも俺は初見でなんでアスカて思ったんだろ・・・。



120:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 14:10:40.908ID:S7q/YGnFa.net
メンヘラ要素は見当たらんな
変わり者なのは間違いないが



123:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 14:18:29.015ID:Odf1ZQp/0.net
>>120
この後ちょっと、あるんですよ、その、彼氏関係で・・・



133:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 16:38:01.799ID:xw+C6tMH0.net
続きが気になる上手な引き


138:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 18:20:29.669ID:fMspoyScd.net
続きやんの


140:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/13(月) 18:50:36.339ID:Odf1ZQp/0.net
今から帰宅します!!!
なんか、いろいろ書き込んでくれてるみたいですけど、
俺なんかリアクションすべきですか・・・?
電車中でスマホで書き溜めしてきますね!


5:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:31:51.703ID:qP4W4GDs0.net
追悼。
当然言葉の意味は知っている。
だからこそそれが上手く現実と符合しなかった。

最初に言っておくが、追悼といってもバンドの解散を指しての言葉ではない。間違いなく、故人を指したものだ。

俺はつま先から力が抜けていくのを感じながら検索画面をwebページに切り替えた。検索結果の一番上にHPが出てくる。白色の背景。グレイタイプのエイリアンの被り物をした人間がそれぞれ楽器を持っている。
最終更新は当時の年号よりも古い。
infoの欄をタップしてページを開く。
ライブの予定やTシャツの通販なんかの広告が初めに目につく。
そして予定表の日付の横に表示された「中止」の文字。白を基調にした背景なので赤色の文字は目立っていた。

さらに俺は検閲を続ける。
blogのページに進み、一番初め、事実を決定づける一文を発見した。

【謝罪】
この度、自分たちの都合でライブをキャンセルしてしまい申し訳ございません。
この記事をもって更新を最後にさせて頂きます。
バンドも解散します。
解散ライブに関してですが、行いません。
やはり一人でもメンバーが欠けてしまった以上、僕たちではないからです。

ここはうろ覚え・・・
本当はもう少し長い文章だったけど、なんか無機質な感情のない感じの通達って感じの記事だった。

更に記事の過去分をさかのぼる。
【謝罪】の前の記事は、数か月前に投稿されていた。

俺はとにかく記事を逆行し、彼らの事を調べた。
結果わかった事。
ミラーマインドのヴォーカルは数年前に死去していた。



8:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:42:42.282ID:qP4W4GDs0.net
念のため初めに見つけた動画も再生したが、
どうやらアスカの部屋で聞いたCDの歌声と同一人物らしい。
らしい、と曖昧なのは事実が呑み込めないのと、物理的に、音源の差で正確に判断できなかったからだ。
ということは・・・どういうことか。
アスカが彼氏だと言った人物は既に故人で・・・ならアスカは俺に嘘をついたということだろうか?
俺は反射的にwebページを落とし、ラインのアプリを開いた。
アスカのトークルームを開き、そこで手が止まる。
この時は正真正銘、思考よりも先に行動していたので何故そんなことをしたのかわからない。手が止まったのは自分の言いたいことが文字にできなかったからだ。

『え、アスカさんの彼氏て亡くなってるんですか……?』

多分、聞きたかったのはそれだ。
けれど聞けるはずがない。俺はキモオタだが人の気持ちが解らない人間ではないのだ。それが相手を傷つける言葉かどうかの判断はできる。

理由はそれだけではない。
俺はアスカに拒絶されたのかもしれないという事実が怖かった。
そうだろ?
嘘だったら、そんなもん直ぐばれる。事実、俺は数分スマホを操作しただけで特殊な人脈もテクニックも使っていない。
わざわざばれる様な嘘を吐いたのは、ばれる前提で嘘を吐いた意図を察しろということではないか。

いや待てよ、と頭を掻き毟る。
それこそアスカのキャラじゃない。俺の好意を拒否するならはっきりそう言うだろう。アスカはそういう人物だ。



9:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:42:59.514ID:qP4W4GDs0.net
わからない。わからない。わからないから誰かに相談したい。
そうはいっても宛てがない。アニさんは昨日の今日でどの面下げて、て感じだし。アスカのことは大学の友人連中には話していない。

気づけばさっき振り切ったつもりの相手のことばかり考えていた。
思いを断ち切ろうとして、自分は失恋したんだと受け入れようと思ったはずなのにだ。結局どうしようもないくらいに俺はアスカが好きだった。

自分の未練を落ち着いて受け止めつつも、理性は警鐘を鳴らしていた。ここから先へは踏み込んではいけない。俺程度で受け止められる話ではない。

普通なら、ここで引いておくべきだろう。

だというのに、悲しいことに俺はキモオタのくせに妙な行動力があった。

何ができるわけでもないくせに車に乗り込み、向かった先はアスカの自宅。

この時ほど運転中をもどかしく感じたことはない。
まどマギの初打ちの時とは比べ物にならないもどかしさだ。その時と違ったのは、目的地を急ぎながらも心のどこかでまだついて欲しくない、心の準備をする時間が欲しいと思っていたことだった。
実際、信号で停車する度でかい声で独り言を言って余裕がないことを誤魔化していた。

家まで行ってどうする?
何て声をかける?
突然電話して、今あなたの家の前にいます!とか言ったとしてそこからどうするんだ?

「あー、調べたんだー、きも」

こんな事を言われるならいい。
どっち道もう破綻した関係なのだからトドメを刺された方が清々する。
この変な胸騒ぎが治るならそれでよかった。



10:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:43:18.412ID:qP4W4GDs0.net
アスカ宅に到着したが、どうやら不在のようだった。
前回のことで部屋の番号は覚えていたので、今回は本人を呼び出すのではなくインターホンを押した。
それも5分おきくらいに合計3回。居留守かも知れないが確かめようがない。
今日はバイトだったか、それとも……
俺にはアスカの行きそうな場所にもう一つだけ心当たりがあった。

行き先は決まっている。
いつもの過疎ホールだ。

アスカの家から店までは車で15分ほどで辿り着ける。
途中ついに堪え切れなくなった俺はラインで「今どこですか?」とメッセージを送ったが返事はなかった。

ホールに辿り着く。

色々あってしばらくパチンコ屋を離れていた俺は自動ドアが開くと同時に頭が痛くなるような騒音と煙草の匂いにたじろいだ。ディープなスロカスマドキチの俺も随分衰えたものだ。

一階のパチンココーナーをちらりとも見ず、エスカレーターを一段飛ばしで駆け上がる。店員の張り上げるみたいな挨拶にびびってホール内は走らなかったが、早歩きで目的地を目指した。
当然、番長コーナーである。

俺は記憶にある番長コーナーにまっすぐに向かい、アスカを発見した。


俺の知る番長コーナーは、エヴァンゲリオン決意の刻のコーナーに様変わりしていた。



14:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:45:07.651ID:qP4W4GDs0.net
ギャグみたいだがこれは本当だ。

なんでやねん、みたいに一人でつっこんで移動した番長2を探す。
ホールの間取りは円形の空間に沿って台が配置されている感じだ。ぐるりと一周すれば目当ての台を見つけ出すことは難しくない。

そしてやうやく発見。

番長コーナーは、縮小されて4台ほどに台数を減らしていた。
過疎ホールのくせに4台とも稼働している。

その中にアスカはいなかった。

落胆してふらふらとホールを彷徨う。
アスカが他の台を打ってるところなんて見たことがないが、もしかしたら番長の空き待ちでどっかにいるかもしれない。念のため休憩所も確認する。いない。ホールの中のどこにもアスカはいなかった。

宛てのなくなった俺は崩れ落ちるようにして休憩所のリクライニングに体重を預けた。

ここにいないなら探しようがない。
いっそ家の前で待っていればその内会えるだろう。むしろそうするしかないんじゃないだろうか。

時刻は19時前。
外はもう暗い。
こんな日が落ちてから自宅に張り付いていれば最悪通報されてしまう。
もういいや、帰ろう。
失意に飲まれて俺は帰宅した。



15:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:45:34.730ID:qP4W4GDs0.net
家に戻り、無気力なままベッドに身を投げ出そうとした瞬間だった。
先に放り投げたスマホが振動して液晶のハイライトが灯る。

『バイト終わった(・Д・)』

アスカからだった。
いつもと変わらない調子に安堵する。
俺は急いで返信した。

『お疲れ様です!
今電話いいですか?』
『ダメ。今バス。
ご飯まだ食べる』
二つ目の意味がわからない。

『だったら奢ります!
俺今日勝ったんで!d(^_^o)』
『いいよいいよ(((o(*゚▽゚*)o)))♡』←顔文字は忘れたけどこんな感じのにハートが付いてた。

断られてるのか喜ばれてるのかどっちだ?

『あ、じゃあ、家着いたら連絡下さい!』

なんとも攻めれず、草食系丸出しの俺。
滞りなかったアスカからの返事が止まった。

それから少しして再度端末がバイブレーション。

『帰宅ー!
今からお風呂』

この人は、余計な事を……!
……ふぅ。

今をもってしてもアスカの『お風呂』ということばの威力は俺にとって絶大だった。
落ち着け俺の分身、冷静になるんだビークール。

とはいっても直ぐに冷静になれるほど奴は単純ではない。ならばアスカの入浴中に情事を済ませてしまおう。

そう思ってwebのブラウザを開いた直後だった。

瞬間、液晶画面が制止する。
あらゆるページはタップを受け付けずにフリーズ。違和感に対して遅れてくる機体のバイブ。それに伴い暗転する液晶と追随するような重厚な低音が着信を知らせる。
呼び出し主を告げる文字が画面中央に表示されていた。

「着信……? ……アスカから?」



16:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:50:44.715ID:qP4W4GDs0.net
戸惑う事20秒ほどだろうか。
ようやく事態を飲み込んだ俺は通話ボタンをタップした。

「もしもし……?」
『出るのが遅い! また風邪引いたらどうすんだ!』

紛れもなくアスカだった。
久し振りに聞くアスカの声はあの日以前と変わりない。
それよりもなんだ、今気になることを言ってなかったか?

『すいません、ちょっとスマホ放置してて』
返信しない女子か俺は。

『風呂じゃなかったんですか……?』
『ん。俺君電話するて言ってたの思い出して』

あー、なるほど。

『アスカさん』これは本当に言った。『今パンツ履いてますか?』

『はあ?』

うわぁ、やばいこの声ぞくぞくする。

「や、風邪とか言うから、もしかして上着とか着てないのかなて、ほら最近は夜だとまだ寒いしそれにふじこふじこ!」

やっぱりパンツは最後ですよね?
脱ぐならまず上からで、え、じゃあ今もしかして上は何も着てなかったりするんですか!?
当たり前だけどこれは言ってない。

『まだ履いてる』

答えてくれるんだ。

「ですよね、また風邪引いたら大変だし」
『誰のせいだと思ってんだ』

もー、と言った後にはぁ、とため息。

『どうしたの? 要件は?』

アスカはどことなくアニさんみたいな話し方になった。

「いや、えっと……」

肝心な時になにもでてこない。
沈黙が続いて切られることを恐れた俺は後先考えず、

「あの、バンド」

そのように発言していた。



17:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:51:03.312ID:qP4W4GDs0.net
「アスカさん家で聴かせてもらったCDすごいよくて、他にも聴きたいなあー……と……」
『そうなんだ!』

アスカさんの声は明るい。

『んー、いいよ。どうしよっか? また家くる?』
それはなんと魅力的な提案なんでしょう。
なんなら今直ぐに馳せ参じますので、どうかそのままのお姿でお待ちいただけますか?

『そっか俺君も気に入ったんだミラーマインド』
「あー、はい……えっと」
『?』

俺の歯切れの悪さにアスカさんが「ん?」みたいな声になっていない音を立てた。

「付き合ってるんですよね……」
『そうだよ』

即答された。

「いや、その、ええと、」

俺もう焦りまくりで言葉が出てこない。

その人、俺の認識ではもういないんですけど?
だから付き合ってるじゃなくて付き合ってた、ですよね?
でもそんなことは言えずどうしても会話が迂回する。

「大丈夫ですか? そんな、家くるとか言っちゃって……? やっぱりほら、怒られたりするんじゃないですか?」
『あはは。なんだそれw』

『大丈夫だよ』

『いーくんはそういうの気にしないから』



18:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:51:20.004ID:qP4W4GDs0.net
『遠距離長いからねー』

とか、そんな調子のことを色々言われた。
アスカさんが何か言うたびに胸が締め付けられた。
好きな人が恋人のことを嬉しそうに話してくるのが苦しいとか乙女チックな青春をしていたわけじゃない。だってその人個人ですよね。なんでそんな、今まさに幸せの絶頂みたいに話せるんですか?

『俺君さあ、よかったら今度ライブ行く?』

俺とは反対にどんどんテンションが上がっていくアスカさんが提案した。

「ライブて、なんの?」
『えwwwこの流れでわかんないの?w』
「……」

今度いつやるのかなー、確認してみるね!
そう言って自然と通話を切る流れになり、どうにか引き止めようとして俺は言った。

「アスカさん、あの……もう解散してますよね」
『    』
電話越しなのに空気が変わったのがはっきりわかった。

「いや、俺、自分でも調べてて、そしたらボーカルの人が、そのアレだって……」
『なんだよ』

感情のない機械でサンプリングしたみたいな声だった。

「ごめんなさい、俺、アホですよね? けどなんつうか、やっぱりはっきり言われた方が諦めつくし、あー、でも俺もちゃんと告白した訳じゃないし、そんで、あー、えっと」

正直あわあわしてたので何を口走ったか覚えていない。
まくし立てるみたいに話した。
なんとなくその先をアスカに言わせてはいけない気がしたからだ。

『わからない』
『俺君が何言ってるのか』
『なんで解散なの?』
『なんでそうなるの?』
『なんで?』
『なんで?』
『なんで?』
『もういいや、変なこと言うなら知らない』
『どう言うつもりか知らないけど、俺君そういうのよくないよ?』
『じゃあね』

空気が固体で視覚的に認識できるものだったなら、この時確かに俺の目の前は粉々に砕け散った。
アスカさんが言っている間、俺は制止の言葉を挟んだりなんか無闇に謝ったりしていたが、
そもそも彼女の言葉は俺に向けられていたのかさえ怪しく、二人で全く噛み合わない会話をしていた。

ぶつり、と通話が途切れる。



24:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 10:49:13.918ID:rNZ/48mS0.net
おもしろくなってきたね
でも変に脚色せず出来事を順番に正確に書いたほうがもっと良いと思う
小説なら好きに書けばいいけどこれはノンフィクションなんだろ?



25:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:07:22.960ID:qP4W4GDs0.net
>>24
会話の内容とかはどうしても覚えてない部分があるので脚色になってしまいます・・・
俺も内容くどいと思うんで描写もっと減らしますね。



26:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:37:27.187ID:qP4W4GDs0.net
すぐに掛け直したが切断された。
もう一度掛け直すと今度は話中。
よせばいいのに、やばいと直感した俺は数分後には車上の人になっていた。
運転しながらも震える手で何度もアスカに発信する。
よせばいいのに。
自分でも訳が分からなくなりながら、アスカ宅へ急いだ。



27:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:38:51.204ID:qP4W4GDs0.net
落ちそうなんでちょっと書いてたぶん貼ってきます。


車を飛ばして日中にも訪れたアスカ宅へ到着する。

インターホンを鳴らす。出ない。

電話もかけてみるが出ない。

無視されてるのだろうとも思ったが食い下がった。

それこそ通報されてもおかしくないくらいに何度も。



そんなことをしているとものすごい勢いで男がこっちに向かってきた。

ああ、ついに俺も前科持ちかあ、と思って観念したが男は俺のことなど無視。

あろうことかついさっきまで俺がそうしていたように、アスカの部屋を呼び出し始めた。



29:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:42:53.841ID:qP4W4GDs0.net
「ちっ……!」

鬼気迫る感じで舌打ちする。
男の事は松田桃太に似ていたので松田とする。
松田はどこかに電話をかけながら(状況的にアスカに電話をしてたんだと思う)インターホンを鳴らしまくった。

「なあ、あんた」

松田の視線が俺に向く。

「ここの人か?」
「違います、けど」
「そうか」

松田はそれだけ聞いて自分の作業に戻った。
アスカの部屋を呼び出しても応答がないと悟ると、
今度は連番になる部屋番号を呼び出し始めた。



30:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:43:43.008ID:qP4W4GDs0.net
「3××室に住んでるやつがやばいんだ! ロック解除してくれ!」

みたいなことを怒鳴ってる。
当然すんなり開けてくれる人などいない。
そんなことを数回繰り返していくうち、
ついにオートロックが解除された。

「ちょっと、すいません」
「あぁ?」

駆け込んでいこうとする松田を俺は呼び止めた。

「俺もついてっていいですか?」
「……?」
「その部屋の人、知り合いで、心配なんです」

松田は何も肯定も否定もしなかった。
一目散に駆け出していく背中を俺も追いかける。

「おい、アスカ! おい開けろ!!!」

部屋までたどり着くと松田はアスカの部屋の扉を殴りまくって叫んだ。



31:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:44:07.559ID:qP4W4GDs0.net
「おい、おいって!! 返事しろ、大丈夫か!?」

そんなことを繰り返していたと思う。
鬼気迫る勢いで、逆に俺はさっきまでの熱が引いていく。
止めた方がいいと思ったところに、管理人?みたいな人が慌ててやってきた。

「すんません、この部屋開けてください! 中で知り合いがやばいかもしれないんです!」

松田は冗談に聞こえない口調でやってきた中年の男性につかみかかった。
でもねえ、とか、そういっても、とかそんなやりとりがあった気がする。
最終的に松田の勢いに負けて、中年はアスカの扉の施錠を解除した。

「アスカッ!!!」

松田が部屋に入る。
あんたは? みたいな顔で俺を見ている中年を差し置いて俺も松田に続いた。

絶句。

部屋の中に入るとキャミソールだけを身に着けたアスカが壁に凭れ掛かっていた。



32:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:45:10.734ID:C5NRVnpxa.net
oh…


33:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:07:47.412ID:qP4W4GDs0.net
「アスカッ、おい! アスカ――ッ!」

アスカは、ぐったりしていたけれど目は空いていた。
胡乱な目つきで焦点が合っていない。どっか遠くを見ているみたいだった。

ここに至ってことの緊急性を察したのか中年が血相を変えて部屋を出ていく。
戻って救急か、警察でも呼ぶのだろうか?

「おい、おまえ。【俺君】か?」
「……え、はい」

なんで俺の名前を知ってるのかとか、一瞬気になったが考えるまでもなかった。
松田が舌打ちする。

「おまえもう帰れ」
「……」

帰れと言われて素直に帰れない。
こんな状況目の前にして立ち去れるならそもそもここまできていない。

「なんでこうなってるか、想像くらいできるだろ?」
「……なんとなくは」
「ちっ……。また連絡するから今は帰れ。おまえがいてもなんもできねーだろ」
「いや、俺は……」

そこで思いっきり殴られた。



34:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:08:07.215ID:qP4W4GDs0.net
本気で人に殴られたのは初めてで、痛いとかよりも先に驚愕した。
こう、自分の体の制御が利かなくなって、上半身が背中から落ちていく感じ。

「……いーくん?」

ようやく思考が事態に追いついて、同時に頬、というか骨格?とにかく顔が痛くなる。
耳鳴りの中、アスカの消えそうな声が聞こえた。

「違う。俺だ。松田だ」

定まらない焦点をアスカと松田に向ける。

「よかったぁ……。電話してもでないから、心配したんだよ……?」
「はあ? ……おいしっかりしろ、アスカ」
「電話出てよ、いーくん。いーくん……。電話……出て?」



35:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:08:19.160ID:qP4W4GDs0.net
うわ言みたいだった。
松田がアスカの手からスマホを取り上げる。
液晶が点きっぱなしの画面を松田が覗き込む。

「――ッ!!!!!!」

声にならない、息を喉の奥まで吸い込むみたいな音が松田から聞こえた。

「アスカさん……?」

痛む患部を抑えながら覚束ない足取りで俺もアスカに近づく。
松田に止められるかと思ったが、松田はスマホを凝視して動かない。

「いーくん……」

アスカの涙声が痛い。

「アスカさん、俺でも。……しっかりして下さい」

状況に置いて行かれそうになりながら、なんとかそんなことをいった。
何かしないといけないと思い自分の上着をアスカに被せる。
その後、いけないと思いながら松田の手の中の携帯を覗き込んだ。

多分、発信の履歴だと思う。

上から下まで、びっしりと全部、同じ名前が表示されていた。



36:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:18:46.511ID:rNZ/48mS0.net
Nice boat.


37:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:42:26.126ID:qP4W4GDs0.net
>>36
やめろめろ



47:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:36:46.621ID:qP4W4GDs0.net
会社呼び戻されました。
ちょっと書いたんで載せときますね!

それから、住人か中年かが呼んだと思われる警察に聴取を受けた。
警察の感じだと痴情のもつれか何かだと思われているらしかった。
当人たちのことは事件性はないものとして深くつっこまれることはなかったが、
住居侵入?みたいなことをしてしまった件については厳重注意を受けた。
中年の希望としては今後立ち入って欲しくないとまで言われたらしい。
後で聞いたがアスカの携帯から両親へ電話もしたとのことだが結局繋がらなかったらしい。

警察から解放された後、ぐったりしたアスカは松田が連れて帰った。
別れ際、松田が俺に言った。

「大学生?」
「はい」
「明日の夜時間いい?」
「大丈夫です」

ちなみにバイトだったが腹が痛いとか言ってばっくれた。正直すまんかったと思う。
そして翌日。
見知らぬ番号から携帯に着信。
松田だった。



48:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:37:07.812ID:qP4W4GDs0.net
『今どこ?』
「あ、自宅です」
『今から会える?』
「はい」
『じゃあ××のドトールわかる?』
「たぶん…大丈夫です」
『ならそこで。今から向かうから30分くらいでいけると思う。さきついたら店入ってて』
「わかりました」

手短いに済ませて待ち合わせ場所に向かう。
先に到着した俺は何故か店内に入らず店先で松田を待った。
遅れる事5分ほどで松田が現れる。
松田は仕事終わりからそのまま来たのかスーツ姿で、
顔がいいからやけに似合っていた。



50:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:38:57.727ID:qP4W4GDs0.net
「中入ってて、て言ったじゃんw」
「すいません」
「待たせて悪かったな。あ、まだ顔痛む?」

昨日のことを心配して松田が聞いてくる。

「はい」
「俺もいっぱいいっぱいだったから加減できなかった、すまんw」

すまんじゃねえよ。こっちはあわや昇天しかけたんだぞ。

「とりあえず中入ろうか」

促されるまま松田と店に入る。
隅っこの方に男二人で座り、松田がすぐに席を立った。
戻ってきた松田はトレーにコーヒーを二つ乗せていた。



51:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:39:22.135ID:qP4W4GDs0.net
「おまたせ」

ナチュラルに奢られた。
正直かっこよかった。
同時に、昨日の事もあり引け目を感じる。

「えーと……」

委縮してしまって自分から話さない俺に、
松田は頬をぽりぽりやりながら話の切り口を探しているみたいだった。
身も蓋もない話題を2つ3つ消化してから、

「アスカからまあ……俺くんのこと聞いてる」
「そうですか」

ストーカーとか勘違いボーイとか言われてるんだろうか。

「いろいろ迷惑かけて悪かったな。そんで、単刀直入に言うわ」
「はい」
「アスカのこと好きなら、やめた方がいい」

それはいつかアニさんに言われたことだ。
今となってはその意味が全然違って聞こえるが。



52:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:39:56.251ID:qP4W4GDs0.net
「もちろん一方的にもうあいつに近づくなとか、昨日の事は忘れろとかは言わない。殴っちまった手前、こっちの事情も簡単に話すつもりではいる」
「その……アスカと付き合ってるんですか……?」

言ってから自分の聞いていることがすごく幼稚だと思った。
松田は、いやいや、と手を振って否定した。

「それはないよ。あいつの男は俺らのリーダー」
「リーダー……?」
「そ。ミラーマインド」

すっ、と腑に落ちた。
その可能性はちょっと考えれば思い至っただろうのに、
松田の容姿が全然バンドマン然としていなかったので考えていなかった。

「あー……と。その、リーダーの人って」
「うん。死んだよ。3年前に」



53:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:41:39.102ID:qP4W4GDs0.net
怒られるかな、と思ったけど松田は怒気のない声で言う。

「俺とあいつはガキの頃からの付き合いで……幼馴染ってやつ? 小学校から大学までいっしょだった。他のメンバーは年上だったんで、俺らが大学出るタイミングで上京して本気で音楽やろう、てことになったんだ」

で、いざ上京したら、

「あいつ、路上でさされて死んだ。アホなカップルの痴話喧嘩で、逆上した男に刺されたんだと。ドラマみたいで笑えるだろ?」

何が笑えるのだろう。無理して笑ってる松田に合わせて俺も笑うべきだったのかもしれないが、俺は全く笑えなかった。

「そんでさ、その頃はもうアスカとあいつは付き合ってたんだけど、アスカは葬式には来なかった。
当日に俺が家まで迎えに行ったけど、自分はあいつが返ってくるのを家で待ってるんだと。
そっからは時々アスカから俺に連絡がきたよ。
そっちではライブしてるのか、とか。GWやら盆やらは戻ってくるのか、とか。
だんだん頻度は減ってきたけど、昨日、久しぶりに電話きてさ。チケットくれだとさ。なんか俺くんといっしょに見に来るて言いだしたんだ」

昨日俺が掛け直した時、話し中だった相手は松田だった。



54:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:21.572ID:qP4W4GDs0.net
「そんなこと今までなかったからちょっと焦ったよ。アスカのことは気にして会うこともあったけど、もう立ち直ったと思ってた。
意識してあいつの話題は出してなかったけど、全然そんなことなかったのな。あいつは結局、なんの現実も受け入れられてなくて、
今でも自分の恋人は元気にギター弾いて歌ってるんだと、思ってる」

昨日のことは気にすんな、と松田は付け加えた。

「アスカがああなったのは多分俺のせいだ。あいつの葬式の日みたいに、感情が死んじまったみたいなアスカの声なんて久しぶりに聞いたから、ちょっと、きつく言っちまった。死んだやつの事だろ、もう忘れろよ! ……てな」

俺の事を気遣ってくれてるのかもしれなかったが、どこか疎外感を感じて鬱になった。

「昨日は俺の家に泊めた」

まさか……へんなこと、にはなってませんよね?

「仕事行く前はまだ寝てたけど、嫁さんから目覚まして落ち着いてるて連絡来たから多分大丈夫だ」
「そっすか!」
「おお……急に元気だな」

松田が既婚者だと知って俺のテンションが2割増しになった。
それから色々と松田と話した。
死んだボーカルの人はどんな人だったのか、とか、今はどんな仕事してるのか、とか。ぶっちゃけ昨日のアスカの格好を見てどう思ったのか、とか。
俺はことがことだったので思い出しても全然興奮しないのが残念だったが、不謹慎な気がして言えなかった。

「ま、ああいう状況じゃなきゃ勃つわな」
「www」



55:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:43.093ID:qP4W4GDs0.net
イケメンが言うと下種なのにかっこいいなー。
俺は不思議と松田と意気投合した。
それは俺たちが共にアスカを大切に思っていることが理由なのかもしれない。
松田はどうみても俺と違って本物のリア充でヤリチン野郎で既婚者だったが、アスカの存在が壁を取り払ってくれていたのだと思う。
言っても、俺のはガキの片思いで、松田のそれは親友の恋人を気にする大人な気持ちだったわけだが。

「そういえばさ」

話が盛り上がって、俺がコーヒーのお代わりを打診したのを断った後、松田が思い出し笑いする。

「おまえ、アスカと知り合ったのパチンコ屋なんだって?w」
「あー、はい」
「去年の年末くらいだろ?w」
「ちょwアスカに聞いたんですよね?w」
「まあな。なんか焼肉奢ってもらったとか、おまえのこと変なやつだって言ってたぜ?w」

まさかほとんど出会ったばっかりの頃に、アスカの口から俺の存在が第三者にリークされていたとは・・・。心底意外だった。



56:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:59.209ID:qP4W4GDs0.net
「アスカ、あいつの影響でスロットやり始めたんだよ。俺もあいつに連れてかれたわw」
「あ、松田さんもスロやるんすか!? 今はまどマギが熱いすよね!」
「いや、もうやってないよ」

ほむぅ。

「まどマギは知ってるけど」
「マジすか!? 俺、世間ではネタにされてるけどさやかさん好きなんすよ! 5人の中で一番えろい体してると思いません!?」
「あ……うん。そうかもね」

松田はめちゃくちゃ引いてた。

「松田さんアニメとか見るんすか?」

キモオタは自分のフィールドだとノリノリだ。

「見るよ」
「!」
「ゴルゴとか」
「( ;∀;)」



57:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:43:28.812ID:qP4W4GDs0.net
俺の暴走モードを遮って、

「俺くん、アスカのどこが好きなの?」

松田がガールズトークを持ち出してくる。

「どこって……」
「顔?」
「やー……」

かわいいと思うけど、外見に惚れたというのは薄っぺらい気がして濁す。

「あぁ、胸か」
「違いますよ!?」

いーっていーってみたいに茶化される。いやほんとに違うよ?
そこからからかわれながら俺は松田に心中を赤裸々に暴かれた。
誘導尋問を受けるみたいに、アスカのこういうところが好きだ、とか、ホールではしゃいでる姿が気になった、とか、ぼろ負けして死にそうになってるときに優しくしてもらった、とか。
言えば言うほど、俺は松田よりよっぽどアスカを知らない事を自覚させられて、だったらきっと、例の彼氏には足元にも及ばないことを思い知らされた。
そもそも男の影響でスロット始めたなら、俺が店で見てたアスカは本当のアスカじゃない気がして苦しくなった。



58:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:44:58.449ID:qP4W4GDs0.net
アスカが番長ばかり打ってる理由も、松田が話してくれた。

「あいつがアスカに告ったのさ、大学の卒業式の日なんだわ。ぶっちゃけそれまでも付き合ってるみたいなもんだったんだけど。
……そうそう合宿ついてきたりとかw」

この辺聞くのが鬱すぎて聞き飛ばしてました。
話は告白に戻る。

「弱いくせにめっちゃ酔ってて、あいつ夜中にアスカのこと呼び出したんだ。で、どうしたと思う?」
「わかりません」

イケメンリア充のやることなど俺には想像もつかんし知りたくもない。

「近くの公園で弾き語りして告白。そんとき歌ったのがスロットの番長の曲」

こんな感じ、とメロディーを鼻歌で聞かされて、にわかな俺でもそれが【distance】だとわかった。アスカがしょっちゅう口ずさんでいたので気になって何度もネットで聴いた。


https://www.youtube.com/watch?v=7xJhooDoEB8



64:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:23:28.124ID:qP4W4GDs0.net
なんで告白でディスタンスなのかと思ったけど、その時本人がはまっていたかららしい。
そこからは取り留めのない会話をして解散の流れになった。
店を出てから最後に、

「俺くんがどのくらいアスカのことを好きなのかはわからないけど。あいつがまだ吹っ切れていないてわかった以上、そっとしておいてやって欲しい」

そう言われた。
てっきり俺がアスカを変えてやる流れじゃないのか?と思い、そんな感じの冗談を言えるくらいには松田と仲良くなったつもりだが、あんまりにも真剣な顔で言われて俺は黙った。

「多分まだ時間がかかると思う。なんかの拍子に昨日みたいなことになるかもしれない。その時、万が一のことがあったら、俺や俺くんが必ず守ってやれる保障はないだろ?」

ガキの恋愛の尺度とはかけ離れた意見だと思った。
だから俺は「ご迷惑をかけてすいませんでした。アスカさんに謝っておいてください」とだけ言って、松田と別れた。



65:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:28:14.887ID:qP4W4GDs0.net
それから一か月くらいは何もなかった。
ゼミの選択とか、定期考査とかに追われつつ、普通に大学に行ってバイトをしてとまともな生活を取り戻した。
もちろんスロットも打った。
番長は打たなかったが依然と同じまど豚に返り咲いた。
途中何故か輪廻のラグランジェに浮気もした。
ほむほむはいなかったけどまどかがいた。

ただアスカと出会った店にはいかなくなった。
もしかしたらまだアスカはあの店で番長を打っているのかもしれないが、顔を合わせるのが嫌で避けていた。

少しずつアスカのことを忘れ始めていた頃、
アスカから着信が来た。



66:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:31:24.266ID:qP4W4GDs0.net
『もしもし俺くん?』

一度呼び出しが途切れるまで出る決断が出来ず、
直ぐに掛かってきた二度目の着信に応答する。
不安そうなアスカの声が呼び掛けてきた。

「はい……アスカさん、ですよね?」

携帯同士のやり取りでなんか変だなと思った。
アスカは、なんていうかしおらしい感じの、しゅんとした雰囲気だった。

『うん。久しぶりだね』
「はい。……なんていうか、その、元気でしたか?」

最後に見たアスカのぐったりした姿を思い出す。

『もう大丈夫。……だと思う。その節はご迷惑をおかけしました』
「話、聞きました」
『そっか。……あはは、なんか恥ずかしいね』

その話題に触れればまた松田さんに迷惑をかけると思ったが、
気づいたらそんな言葉を返していた。
大急ぎで会話を路線変更する。

「どうしたんですか? あっ、アスカさんから電話してくれたの初めてですよね!?」
『うん。迷惑かけちゃったから……ちゃんと謝らないといけないと思って。俺くんも、翔ちゃんに殴られたみたいだし』

それ、男として恥ずかしいので触れないでもらえます?

『わたし、こんど引っ越すことにしたんだー。いろんな人に迷惑かけちゃったし、なんか、いずらいし。実家戻ろうかなー』

とつとつとアスカは様々な話をした。
実家がやたらと厳しいこと。
通っていた大学も、自然といかなくなってやめたこと。
例のボーカルとの馴れ初めなんかも聞いた。



67:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:31:41.527ID:qP4W4GDs0.net
『大学は、親に指定されてた。ものすごく頭のいい大学ってわけじゃなかったけど、お父さんとお母さんが卒業した大学だから、て。
だから頑張って頑張って……。勉強は苦手じゃなかったけどしんどかった。模試の結果がA判定じゃなきゃその度に吐いたりした。
友達とも遊ばなくなって、ずっと勉強ばっかりしてた。
そしたら仲が良かった子が、自分のお兄さんのバンドのライブに誘ってくれたんだ。
ライブハウスなんて行ったことなかったし、バンドとかも全然詳しくなかったし、なによりきっと怒られるから断ろうと思った。
でもわたしのこと心配して言ってくれてるんだ、て思ったらなんだか断れなくて。当日、わたしは親に嘘ついてライブを見に行った。
びっくりしたなあ……。こんな世界があるんだって。
色んなバンドの人たちが好き勝手歌って演奏して、すごくうるさくて耳が痛くなって、揉みくちゃになって足を踏まれたりしたけど、すごく楽しかった。
演奏が終わったら帰ろうと思ったけど、友達がお兄さんに捕まって、一人じゃ帰れないから隅っこで座ってた。
そしたらいーくんが声をかけてくれた。
たぶん、ナンパ……だったと思う。お酒も飲んでたみたいだし。いーくんお酒弱いのにすぐ飲みたがるんだw
どーして来たの?とか、誰かのファン?とか。
ちょっと怖かったから愛想笑いしてたら友達がお兄ちゃんと一緒に助けに来てくれた。
この子こーいうところ慣れてないんですよー、みたいに言って、
今日は勉強の息抜きて説明してた。
そしたらいーくんはわたしに、
「なあ、今日楽しかった?」て聞いてきて、その質問だけはわたし本音で答えられたんだ。
そしたら「また来いよ」て。お酒で顔真っ赤にしながら笑って言われた。
たぶん、そのときわたしはいーくんのこと好きになったんだと思う』

聞き上手な男がかっこいいと思っていた俺は、アスカの話を最後まで黙って聞いた。相槌も打たなかったと思う。



68:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:32:02.081ID:qP4W4GDs0.net
『友達にお願いしてもう一度だけライブハウスに連れて行ってもらったんだけど、その日は参加してなくて。
落ち込んだけど、その後いーくんからメールがきてびっくりした。
友達のお兄ちゃんが取り次いでくれたんだって。
それから家のこととか、勉強のこととか相談に乗ってくれて、
「で、おまえはどうしたいの?」て言われた時、
「いーくんの彼女になりたい」て言ったら、
「なんだそれw」て笑われた。
本気だったからすっごく悲しかった。
それで初めて親に反抗した。
もっと勉強頑張って、いい大学に行くから下宿させてくれて。
納得してくれなかったから勝手に学校で進路志望提出して、
模試の判定見せたら「勝手にしろ」だって。
わたし、いーくんのおかげで変われたんだ。
受験までわたしが全然ライブに行かなかったから、
どーしたんだって、いーくんに聞かれて。
受験勉強だからいけないって言ったことがあるんだけど、
また根詰めすぎてるんじゃないかって心配されて、それで、それで、今、楽しいから大丈夫って答えたら、
「バカだなあ」だって。
それで、それでね……それ、で…………』

ぼろぼろになりながら、アスカが最後に言った。

『……俺くんに会いたいなあ』



71:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:37:56.829ID:rNZ/48mS0.net
泣いた


76:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 18:25:24.479ID:qP4W4GDs0.net
松田との約束を破るみたいで煮え切らなかったが、結局アスカとは会うことにした。
何かあったらきっといろんな人に迷惑をかけると思ったが、
電話越しに泣いているアスカを放っておけなかったし、
自分の気持ちだって全然吹っ切れていなかった。

居ても立ってもいられなくなって車に乗り込んですぐにアニさんに電話した。

「俺やっぱり好きです!!」
『あたしは年下お断り。ぱしりにならしてやるけど』

この人いつの時代のヤンキーなの?

「あんたじゃねえよ!」
『あっそ。で、なに? また女々しい相談?』
「だから好きだって!」
『ありがとう』
「違う!」

たぶんこんなやりとりをした。
テンション上げすぎてて空回りしたんだ。

『例の女ならやめろって言っただろ。チ〇コの毛までむしり取られるぞ』
それは是非に。ではなく。
「計算高いアホ説やめてください! それ間違いでしたから!」

かくかくしかじか。
なるべくプライバシーに触れないように配慮してことの経緯を説明する。
アニさんは、

『うげえ……』

本心から引いてるみたいだった。

『痛てぇ……おまえそれアニメ見すぎ。童貞の妄想激しすぎるわ病院行け』
「これマジなんすけど」
もう俺が童貞なのか素人童貞(アニさん+1名)なのかはどうでもいい。

『やめとけって』

口調が変わった。

『それがマジだとして、おまえに何が出来んの?
その女に昔の男忘れさせられるほどの甲斐性なんてないだろ?』
「そりゃあ……けど俺は……」
『俺は?』
「アスカが好きだ」

アニさんは、きっも、と言っていた。

『あー、じゃあもうそれでいいんじゃねーの?』
「はい?」
『なんもできないより、好きでいられるだけましだろ。もういいか? どうせあたしが何言っても聞かんだろ、おまえ』
「はい!」

達者でな、とアニさんは電話を切った。
俺は何故だか凄まじい死亡フラグを立ててしまった気がしたが、
構わず信号と制限速度を無視して車を走らせた。



77:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 18:26:02.971ID:qP4W4GDs0.net
細い坂道を登り切ると、小さな神社がある。
その麓?車が走れる幅の道の果てにアスカの家はあった。
道幅のせいで徐行を強いられるのがもどかしかった。
到着してアスカを呼び出す。
待っている間にすれ違った住民に熱い視線を送られたのが怖かった。

「……おまたせ」

懐かしい、初めて会った時のショートパンツにパーカー姿のアスカ。
ずっと家にいたのか髪はぼさぼさで、タイツは履いていなかった。
アスカはひらひら手を振って近づいてきた。

「アスカさん、俺、言いたいことがあるんです。話したい事、聞いてほしい事、うまく言えるかわかんないですけど、伝えたいことがあります」

アスカに駆け寄って肩を掴むと、自然とそんな風に口走っていた。

「ダメ」

短い拒否の言葉。

「わたしは俺くんの気持ちに応えられないよ? だから言わないで」

この時初めて。
俺はアスカに振られた。



79:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:42:52.712ID:C5NRVnpxa.net
wktk


80:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:46:10.206ID:QpGUt7vXH.net
これまだ残ってるてことでいいですか?
残ってたら続き書きます



81:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:47:06.977ID:6zyZcooe0.net
たのまあ


82:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:48:07.092ID:QpGUt7vXH.net
>>81
おk
とりあえずMAJOR10巻まで読んだら始めます!



83:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:50:46.965ID:1/YBDgcj0.net
>>82
なによんどるんじゃぼけ



84:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:52:46.018ID:6zyZcooe0.net
>>82
は?



85:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:04:24.773ID:QpGUt7vXH.net
ちょっと待って、今おとさんイイトコロ・・・
なんか投下できてない分残ってたんで先貼ります。


「俺、は」

喉元を握られてるような気分だった。うまく言えないけど発声できない状態。
アスカは、

「ごめんね」

街灯の光が頬に当たっていて、それを避けるみたいに首を傾けてほほ笑んだ。

「わがまま言ってごめん。会いたいって言ったのは、そういうことじゃないんだ」
「だったら……っ」

だったらなんなんですか、という前にアスカが俺にスマホを突き出す。

「今はまだ俺くんの気持ちに応えられない。
わたしは、いーくんがいなくなった日から立ち止まっちゃったから。
俺くんのいる場所にわたしはいない。だから進まなきゃいけないの。だからお願い。俺くん」


棒立ちする俺の手に突き付けられたスマホが乗せられる。



86:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:05:38.779ID:QpGUt7vXH.net
「自分じゃできないから、全部消して」

なにをすればいいのか流れでわかった。
スマホのロックは解除されている。
ホーム画面から記憶に新しい通話履歴を呼び出す。
発信の一番上に、俺の名前、その下はあの日見たものと変わりなかった。

「俺くん……?」

俺は。
俺は、預けられたスマホを突き返した。

「ごめん、なさい。できません」

履歴を消すだけじゃない。アスカはデータ全部を消してくれと言っているんだ。
だけど俺にはそれができない。



87:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:06:36.264ID:QpGUt7vXH.net
「俺が、俺が好きになったアスカさんは……今までも全部含めたアスカさんだから」

全身ががくがく震えてしゃくり上げるみたいにしか話せなない。

「あの日俺が出会ったアスカさんは、それをしてしまったらいなくなるから……っ」

アスカは一人で感極まる俺を黙って見てた。

「消しちゃダメなんですよ。そんなことしたら、きっと、壊れる」
「どうして……?」
「わっかんねえよッ!」

女々しいけれど、昔の男の思い出なんて消してしまいたい。
アスカの中にいる『いーくん』を一遍も残さず消し去りたい。
それで、まっさらになった彼女と恋が出来ればどれだけいいだろう。
一方的な気持ちかもしれないし、アスカの中に彼がいる限りきっと俺なんかじゃ敵わない。
アスカが思い出して辛くなる思い出も、
苦しい時に支えにする幸せも、そのどこにも俺はいない。
それでもダメなんだ。理屈じゃなくそう思った。



88:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:07:12.115ID:QpGUt7vXH.net
「頭大丈夫か、あんた?
俺があんたのこと好きだって気づいてたんだろ?
その癖のろけ話なんて泣きながら聞かされて、
急に呼び出されたと思ったら振られたんだぞ?
忘れたいからデータ消してくれとか、そんなこと俺に頼むなよッ!
自分勝手なんだよアスカは!!
未練断ち切れてないくせに、頭おかしくなるほど好きな男がいるくせに、
できもしねえのに忘れるなんて言うなよ!」

「……だったらどうすればいいの?
みんながいーくんはもういないって、
翔ちゃんは優しいからゆっくりでいいて言うけど、
俺くんにも迷惑かけて、それで、どうして」

「3か月!」

「なに?」

「3か月待って」

「……はあ?」

「俺に……時間をください。お願いします」



89:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:33:07.918ID:CK7u4Hi00.net
MAJOR読んでんじゃねーよ
ジャイロボールぶつけんぞ



92:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:39:43.372ID:QpGUt7vXH.net
「タケシ、サークル軽音だったよな?」
「あ? うん」
「もう辞めたよな。バンドやってもモテなかったから」
「やかましいwなんだよ?」
「ギター貸してくれ」
「はあ……。いいけど、こんな時期にサークル入んの?」
「まあ、そんな感じだ」
「いいよ。じゃあやるよ、俺のギター」
「まじで?」
「中古だから6万な」

俺はタケシの脛に黄金の右を食らわせた。

次にやったのは大学のPCで適当なフリーソフトをダウンロードし、動画サイトにアップされている動画の音声を抜き取った。
卒論用に新調したUSBに保存したそれを講義が終わってからアニさんのところへ持っていく。
アポなしで押し掛けたため不在だった。
電話をしてもなかなか出ない。
とりあえずラインを送って帰りを待った。

『はよ帰ってこい。どこで遊び回ってんだこのビッチ』
『童貞腐らせながら一生待ってろ』

あまりにも帰りが遅いので挑発するとそんな罵倒が返ってきた。
ふむ。
やはりアニさんの言葉責めでは俺は上がらない。



93:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:41:16.682ID:QpGUt7vXH.net
仕方なく近くのパチンコ屋で時間を潰して、やっとアニさんとご対面。

「アニさんのせいで2万負けました」
「知らんがな。で、なんだ?」
「これ」USBを差し出す。「中に音声入ってるんでギターの譜面にしてください」
「はあ? 悪いけどあたしは見かけによらず芸術方面はダメだぞ」
「期待してませんよ、アニさんには」

アニさんの無言の肩パン。
しかし俺は動じないし感じない。
「アニさんならそういう知り合いくらいいるでしょ、無駄にケツの穴が広いんですから」
「顔だろ。それならおまえ一人沈めても揉み消せる程度には広いな」

土下座。

「すんません、アニさん、お願いします! 今はないですけど金なら払います!」
「なんだよおまえ。必至だな。まあいいよ。そういう知り合いに頼んでやる」
「!」
「とりあえず今から飲み行くから奢れ。それで勘弁してやるよ」
「りょうかいです!」
「金あんじゃん」
「……」



94:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:42:12.890ID:QpGUt7vXH.net
この人本格的にただのチンピラだったわ。
その後は近くの居酒屋ステージで奢らされ、
酒気帯びになるので俺は今回もアニさんの家に泊まった。
アニさんはアスカとのことは聞いてこなかった。
だから俺も何も言わなかったが、
なんとなくこの人は察してくれたのか、家に戻って電気を消してから、

「知らん間にいい男になったな」

とか言われた。
口説かれてる?
そこもっとタルホさんみたいに言って?
軽口交じりに「アニさんには及びません」と言ってから、

「でも、やんないんですよね?」

念のため確認した。

アニさんは答えないで、代わりに寝息を立てていた。

俺は、薄着で寝るアニさんのパンツで抜いてから就寝した。

確かに俺は変わった。



95:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:42:28.486ID:QpGUt7vXH.net
後日談。
松田に電話した。

「松田さん、ギター教えてください!」
「あ? 俺ドラマーだし」
「(*´Д`)~~」



96:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:43:37.286ID:QpGUt7vXH.net
ここまで来ればさすがに俺のやろうとしてることは言うまでもないと思う。
俺は先人にあやかって、弾き語りでアスカに告白することを決めた。
賛否両論あると思うが、あの時の俺にはそれが一番だと思えたからだ。
例の一件から3日と経たず、首尾よくギターは入手した。
6万はツケにした。
アニさんに頼んだ譜面は1週間ほどで出来上がったらしい。
ギターを手に入れてから10日ほど経って俺の元にやってくる。
その間に、俺は卒論の研究が忙しいとぼやくセイヤに手ほどきを受け、ギターの基礎を学んだ。
これで譜面が手に入れば余裕だと思っていたが、
理屈で音の出し方をわかってるのと、
譜面をさらえるのとはまた別で、
実際、譜面を見ながら思い通りの演奏をするというのはなかなか上手くいかなかった。
しかも歌まで歌わないといけないから骨が折れる。
独力の限界を感じ、俺はドラえもんに依頼した。

『どら焼きやるからギター教えろください』
『レクイエムでいいか?』



97:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:44:04.890ID:QpGUt7vXH.net
アニさんの無駄に広い人脈をいかし、無事コーチをゲット。
ある程度弾けるようにはなったが、コーチ曰く、

「俺に教えられるのは技術まで。生まれ持った才能には手の付けようがない」

その意味を俺は未だに理解したくない。
中学の頃の音楽の成績は常に2だった。



98:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:44:46.862ID:QpGUt7vXH.net
約束の3か月が経つ前に俺はアスカに連絡を入れた。
白状すると心が折れた。
一月半ほど練習して、最初のほうはできるようになったのでそれで妥協。

『今週、会えますか?』
『ちょっと厳しい』
『……そこを何とか』
『手帳見る』
マジで見て。
『〇曜の夜なら、いいよ('ω')ノ』
『ありがとうございます!!』
『また連絡します!』
『り。待ってるね』

こんなやり取りをした。
当日俺はアスカを迎えに行くために約束の時刻の1時間ほど前にメッセージを飛ばした。
きっちりと1時間後に返事が来た。



99:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:45:31.676ID:QpGUt7vXH.net
『今終わったー』
なにがだろう。
『俺くん家ー?(*´з`)』
なんだその顔文字。
『アスカさんの家まで来てますよ。ここで待つの通報されそうなんで早く戻ってきてくださいw』
『あー。わたしもう引っ越したよ』
『ちょw言ってくださいよw』
『ごめんw迎えに来てくれる?w』
『もちろん!www』

で、二駅くらい隣の駅で待ち合わせ。
時間も遅いので明るいところで待っててくれるのは安心した。
駅のロータリーに止めると近くの本屋からアスカが出てきた。
スタバとかあるんだからその辺で待ってればよかったのに。



102:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:46:27.657ID:QpGUt7vXH.net
「お待たせ。ありがとー」
アスカが助手席に乗り込む。

「わ、なにこれ、ギターケース?」
「はい。アスカさん、どっか、人気のないところありますか??」
「え。きもい」

マジで言われたんだw
そしてやっぱりアスカの暴言は下半身に来る。アニさんとは大違いだ。
なんとなく雰囲気とかギターとかでアスカもこの後自分が何をされるのかを悟ったようで、

「あー……じゃあ、とりあえず××の方向かって」

とかナビをし始めた。
アスカの誘導に従って気づけばホテル街へ!とかならよかったのに、
たどり着いたのは廃れた公園だった。
砂場とウンテイと縄でつるされたタイヤみたいな遊具とジャングルジム。それと無駄に長いベンチが一つ。
公民館と総合センターの近くのそこは、確かに時間帯のせいか人気がなかった。
問題は交番が近くにあったことだけど。



103:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:47:12.973ID:QpGUt7vXH.net
駐車するところがなくて少し遠いがコンビニの駐車場を借りた。
で、ギターケースを担いでアスカと並んで歩く。

「大学に行くんだ」
「え? 誰が?」
「わたしだよw」
「そすかw……え?」
「途中で辞めちゃったからちゃんと卒業したいな、て」
「……」
「今はバイトして、お金貯めて、それで、勉強してる。もともと勉強は苦手じゃないし。さすがに公立とかは無理だろうけど。私立ならなんとか……貯金も、ないことはないし」
「それなら俺が手伝いますよ! アルティメットバトルぶち込んで稼いできます!」
「そんな生き方してると結婚できないよ?」

これには俺のアイアンハートもぼこぼこになった。



106:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:49:15.141ID:QpGUt7vXH.net
「いいの。自分で始めないと意味ないから。
ちゃんと大学に行って、ちゃんと前を向いて、ちゃんと、自分の力で生きていかなきゃ。
わたして、ちょっと他人に依存するところあるからさー」

その依存先に俺は成りたいんだよ。
アスカに頼られたくて、頼ってもらえるような人間に見られたくて。
だから俺は歌うって決めたんだ。



110:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 22:49:45.529ID:QpGUt7vXH.net
ギター「ディィィン」

最初からおもっきりミスった。

「あ、今のなし! やり直すんで待ってください!」
「……」
「すぅー、はぁー……」


♪もう↗ふーりー↘むぅかじゅ……


緊張しておもっきりかんだし音外した。


「もう一回。……もう一回、やっぱ外だと緊張して…」

「あはは」

面接官みたいな無表情で見ていたアスカが初めて笑った。

それから何度も何度も途中でやり直して、
アスカに笑いながら茶化された。

ガンバレー、と言われるたびに情けなくなった。

途中からギターなんて弾いてるのか適当に音を出してるだけなのかわからなくなって、
歌だって散々。

だけどアスカは最後まで聞いてくれた。

だから俺も最後まで歌った。


きっと『いーくん』の告白はこんなぐだぐだしたものじゃなかったんだろうな。
アスカの家で聞いてから、今日これを書いてる今まで何回も『いーくん』の歌は聴いた。
その度に自分と比べて悲しくなった。



111:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 22:50:07.843ID:QpGUt7vXH.net
俺は『いーくん』に会ったことはないけど、
絶対に俺は『いーくん』にはなれないのはわかる。

同じことをしようとしてもできない。

あの日の失敗があるからそう思うんじゃなくて、今現在もやっぱりそう思う。

だから忘れさせるんじゃなくて、成り代わるんじゃなくて、
俺は俺として、彼を忘れられないアスカを幸せにしたい。

アスカの中のあの人もひっくるめて好きで居続けたい。

それができるのは俺だけだなんて傲慢だけど、
きっと俺以上にそう強く思える男はいない。

必死にギターを弾きながら、歌いながら、
そんなことを考える余裕はなかったけど、

たぶん、余裕があったらそう思ってたんだろうな。


それで、届け、届って、気持ちを歌に乗せるってこういうことなんだな、て思いながら、
人生で一番好きになった人に歌いかけるんだ。

何度も言うけどそんな器用なこと俺にはできないから、


「アスカさんが好きです。俺と付き合ってください」


全部吐き出すみたいに歌い切ってから、もう何の捻りもなく告白した。
アスカさんは笑い疲れたみたいな表情で、目の端に涙を溜めて言った。


「……バカだなあ。俺くん……バカだなあ」



112:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 22:53:43.481ID:QpGUt7vXH.net
ごめん、ほんとにほんとに最後にこれだけ付け足す。
オチとかないし、ハッピーエンドじゃないし、

釣り宣言とかでもないけど、これを言わないとスレ立てた意味がない。

それから今日に至るまでの俺とアスカの関係は「恋人」ではないと思う…。
残念ながら。
けどそれらしい関係だということは多分俺の思い込みじゃない。

公園で告白して、なんかよくわからん反応をされて(『いーくん』の引用だと俺は勝手に思ってる)なんか気持ちを確かめられないでいた。

けど少なくとも今日に至るまでアスカに彼氏はできていないし、
少なくとも俺以上に個人的にあってる男はいないと思う。

一応ここにかけそうなエピソードがもう一個だけあるから書かせてほしい。



114:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:14:41.450ID:QpGUt7vXH.net
公園での一件から少しして俺とアスカは『いーくん』の墓参りに行った。

盆とかお彼岸とか命日とか全く関係ない日だった。

二人して墓の名前で手を合わせて線香を上げた。

アスカがちょっとどっか行ってて、て言うからあー、泣くんだろうな、と思って、離れるべきか残るべきか迷った。

残ったよ?

だって嫌じゃん、自分のいないところで好きな人が知らん男に泣かされるの。

アスカはやっぱり泣きじゃくって、もう何言ってるかわからなかった。

平日だったからそんなに人はいなかったけど、

それでもちらほらやっくる人にはめっちゃ見られた。

ひとしきり泣いた後、



「ちゃんとわかったよ。今までごめんね、いーくん。

わたしちゃんとするから。いーくんにばっかり頼ってごめんね。

大学の相談乗ってくれてすごい嬉しかった。

もう頭の中めちゃくちゃで、ただただ親に言われて勉強だけしてたけど、いーくんと出会ってからはちゃんと自分の人生を楽しめたよ。

それで、わたしのこと、好きって言ってくれる人ができました」



115:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:16:06.447ID:QpGUt7vXH.net
それを聞いて俺もなんか泣けてきて、
墓の前でしゃがみこんでるアスカを後ろから抱きしめた。

こう、めぞん一刻みたいなこと言っていい感じにしたかったけど、
現実はそんな甘くなくてなんもいい言葉出てこない。

うぇうぇ言いながらまだなんかアスカが話してたけど忘れたw

「アスカさん。……俺、年下で、経験少ないですけど、一生大切にします。絶対、アスカさんの一番になってみせます。本当に好きです」
「うん。……うん。そっか」
「はい」
「……じゃあね、俺くん」
「はい」
「スロット辞めて……?」

これな。
人がプロポーズかってくらい頭ひねって何とか捻りだした言葉にこんなこと言うんですよ。
涙流しながら鼻赤くして、呆れ笑いして目の端の涙を指で払ってた。
ギャルゲーとかだと絶対一枚絵になってたと思う。



116:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:17:01.010ID:QpGUt7vXH.net
それで、ちゃんと諸々も清算して、アスカは宣言通り大学に入学。
俺のスロライフはアスカの大学卒業と同時に卒業する約束をした。

そんで。
今年の三月で無事にアスカは卒業しました。

付き合ってるのかも謎な関係ですが、もう一回ちゃんと告白するつもりです。

スレ立てたのは、GWにまどマギ追悼会(9月で完全撤去される)をやって7万負けたのと、卒業してすぐ告白するつもりが今日までうだうだしてしまった自分にけじめをつけるため。

あと途中でいわれてたけどVIPでこういうの書くのが夢だったw

読んでくれてる人そんなに多くないと思うけど、
勝手にこれ読んでくれた人が応援してくれてると思って頑張る。

これで俺の話は終わりです。

駄文、クソスレすいません。

読んでくれた人、コメントしてくれた人、保守してくれた人、
みなさん本当にありがとうございました!!!!!



117:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:21:40.626ID:slhA/QTx0.net
おつかれさま
告白はいつするんだ?
また結果をスレ立てしてくれ



118:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:23:16.139ID:QpGUt7vXH.net
>>117
俺のオ●ニーにお付き合いいただいてありがとうございます。

いつにしましょう…。
けっこうここで迷惑かけてると思うんでスレは立てないかとw
上手くいったら嬉しくて立てちゃうかもしれませんがw



120:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:34:42.369ID:slhA/QTx0.net
>>118
思い立ったが吉日とも言うしすぐに行動しな
そうしないとどうせお前またうだうだするだろ?



121:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:45:10.411ID:h2j3mjbD0.net
>>120
ですね…。
りょうかいです!



119:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:27:32.915ID:6zyZcooe0.net



122:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:45:26.996ID:h2j3mjbD0.net
>>119
ありがとうございます!



5:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:31:51.703ID:qP4W4GDs0.net
追悼。
当然言葉の意味は知っている。
だからこそそれが上手く現実と符合しなかった。

最初に言っておくが、追悼といってもバンドの解散を指しての言葉ではない。間違いなく、故人を指したものだ。

俺はつま先から力が抜けていくのを感じながら検索画面をwebページに切り替えた。検索結果の一番上にHPが出てくる。白色の背景。グレイタイプのエイリアンの被り物をした人間がそれぞれ楽器を持っている。
最終更新は当時の年号よりも古い。
infoの欄をタップしてページを開く。
ライブの予定やTシャツの通販なんかの広告が初めに目につく。
そして予定表の日付の横に表示された「中止」の文字。白を基調にした背景なので赤色の文字は目立っていた。

さらに俺は検閲を続ける。
blogのページに進み、一番初め、事実を決定づける一文を発見した。

【謝罪】
この度、自分たちの都合でライブをキャンセルしてしまい申し訳ございません。
この記事をもって更新を最後にさせて頂きます。
バンドも解散します。
解散ライブに関してですが、行いません。
やはり一人でもメンバーが欠けてしまった以上、僕たちではないからです。

ここはうろ覚え・・・
本当はもう少し長い文章だったけど、なんか無機質な感情のない感じの通達って感じの記事だった。

更に記事の過去分をさかのぼる。
【謝罪】の前の記事は、数か月前に投稿されていた。

俺はとにかく記事を逆行し、彼らの事を調べた。
結果わかった事。
ミラーマインドのヴォーカルは数年前に死去していた。



8:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:42:42.282ID:qP4W4GDs0.net
念のため初めに見つけた動画も再生したが、
どうやらアスカの部屋で聞いたCDの歌声と同一人物らしい。
らしい、と曖昧なのは事実が呑み込めないのと、物理的に、音源の差で正確に判断できなかったからだ。
ということは・・・どういうことか。
アスカが彼氏だと言った人物は既に故人で・・・ならアスカは俺に嘘をついたということだろうか?
俺は反射的にwebページを落とし、ラインのアプリを開いた。
アスカのトークルームを開き、そこで手が止まる。
この時は正真正銘、思考よりも先に行動していたので何故そんなことをしたのかわからない。手が止まったのは自分の言いたいことが文字にできなかったからだ。

『え、アスカさんの彼氏て亡くなってるんですか……?』

多分、聞きたかったのはそれだ。
けれど聞けるはずがない。俺はキモオタだが人の気持ちが解らない人間ではないのだ。それが相手を傷つける言葉かどうかの判断はできる。

理由はそれだけではない。
俺はアスカに拒絶されたのかもしれないという事実が怖かった。
そうだろ?
嘘だったら、そんなもん直ぐばれる。事実、俺は数分スマホを操作しただけで特殊な人脈もテクニックも使っていない。
わざわざばれる様な嘘を吐いたのは、ばれる前提で嘘を吐いた意図を察しろということではないか。

いや待てよ、と頭を掻き毟る。
それこそアスカのキャラじゃない。俺の好意を拒否するならはっきりそう言うだろう。アスカはそういう人物だ。



9:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:42:59.514ID:qP4W4GDs0.net
わからない。わからない。わからないから誰かに相談したい。
そうはいっても宛てがない。アニさんは昨日の今日でどの面下げて、て感じだし。アスカのことは大学の友人連中には話していない。

気づけばさっき振り切ったつもりの相手のことばかり考えていた。
思いを断ち切ろうとして、自分は失恋したんだと受け入れようと思ったはずなのにだ。結局どうしようもないくらいに俺はアスカが好きだった。

自分の未練を落ち着いて受け止めつつも、理性は警鐘を鳴らしていた。ここから先へは踏み込んではいけない。俺程度で受け止められる話ではない。

普通なら、ここで引いておくべきだろう。

だというのに、悲しいことに俺はキモオタのくせに妙な行動力があった。

何ができるわけでもないくせに車に乗り込み、向かった先はアスカの自宅。

この時ほど運転中をもどかしく感じたことはない。
まどマギの初打ちの時とは比べ物にならないもどかしさだ。その時と違ったのは、目的地を急ぎながらも心のどこかでまだついて欲しくない、心の準備をする時間が欲しいと思っていたことだった。
実際、信号で停車する度でかい声で独り言を言って余裕がないことを誤魔化していた。

家まで行ってどうする?
何て声をかける?
突然電話して、今あなたの家の前にいます!とか言ったとしてそこからどうするんだ?

「あー、調べたんだー、きも」

こんな事を言われるならいい。
どっち道もう破綻した関係なのだからトドメを刺された方が清々する。
この変な胸騒ぎが治るならそれでよかった。



10:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:43:18.412ID:qP4W4GDs0.net
アスカ宅に到着したが、どうやら不在のようだった。
前回のことで部屋の番号は覚えていたので、今回は本人を呼び出すのではなくインターホンを押した。
それも5分おきくらいに合計3回。居留守かも知れないが確かめようがない。
今日はバイトだったか、それとも……
俺にはアスカの行きそうな場所にもう一つだけ心当たりがあった。

行き先は決まっている。
いつもの過疎ホールだ。

アスカの家から店までは車で15分ほどで辿り着ける。
途中ついに堪え切れなくなった俺はラインで「今どこですか?」とメッセージを送ったが返事はなかった。

ホールに辿り着く。

色々あってしばらくパチンコ屋を離れていた俺は自動ドアが開くと同時に頭が痛くなるような騒音と煙草の匂いにたじろいだ。ディープなスロカスマドキチの俺も随分衰えたものだ。

一階のパチンココーナーをちらりとも見ず、エスカレーターを一段飛ばしで駆け上がる。店員の張り上げるみたいな挨拶にびびってホール内は走らなかったが、早歩きで目的地を目指した。
当然、番長コーナーである。

俺は記憶にある番長コーナーにまっすぐに向かい、アスカを発見した。


俺の知る番長コーナーは、エヴァンゲリオン決意の刻のコーナーに様変わりしていた。



14:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:45:07.651ID:qP4W4GDs0.net
ギャグみたいだがこれは本当だ。

なんでやねん、みたいに一人でつっこんで移動した番長2を探す。
ホールの間取りは円形の空間に沿って台が配置されている感じだ。ぐるりと一周すれば目当ての台を見つけ出すことは難しくない。

そしてやうやく発見。

番長コーナーは、縮小されて4台ほどに台数を減らしていた。
過疎ホールのくせに4台とも稼働している。

その中にアスカはいなかった。

落胆してふらふらとホールを彷徨う。
アスカが他の台を打ってるところなんて見たことがないが、もしかしたら番長の空き待ちでどっかにいるかもしれない。念のため休憩所も確認する。いない。ホールの中のどこにもアスカはいなかった。

宛てのなくなった俺は崩れ落ちるようにして休憩所のリクライニングに体重を預けた。

ここにいないなら探しようがない。
いっそ家の前で待っていればその内会えるだろう。むしろそうするしかないんじゃないだろうか。

時刻は19時前。
外はもう暗い。
こんな日が落ちてから自宅に張り付いていれば最悪通報されてしまう。
もういいや、帰ろう。
失意に飲まれて俺は帰宅した。



15:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:45:34.730ID:qP4W4GDs0.net
家に戻り、無気力なままベッドに身を投げ出そうとした瞬間だった。
先に放り投げたスマホが振動して液晶のハイライトが灯る。

『バイト終わった(・Д・)』

アスカからだった。
いつもと変わらない調子に安堵する。
俺は急いで返信した。

『お疲れ様です!
今電話いいですか?』
『ダメ。今バス。
ご飯まだ食べる』
二つ目の意味がわからない。

『だったら奢ります!
俺今日勝ったんで!d(^_^o)』
『いいよいいよ(((o(*゚▽゚*)o)))♡』←顔文字は忘れたけどこんな感じのにハートが付いてた。

断られてるのか喜ばれてるのかどっちだ?

『あ、じゃあ、家着いたら連絡下さい!』

なんとも攻めれず、草食系丸出しの俺。
滞りなかったアスカからの返事が止まった。

それから少しして再度端末がバイブレーション。

『帰宅ー!
今からお風呂』

この人は、余計な事を……!
……ふぅ。

今をもってしてもアスカの『お風呂』ということばの威力は俺にとって絶大だった。
落ち着け俺の分身、冷静になるんだビークール。

とはいっても直ぐに冷静になれるほど奴は単純ではない。ならばアスカの入浴中に情事を済ませてしまおう。

そう思ってwebのブラウザを開いた直後だった。

瞬間、液晶画面が制止する。
あらゆるページはタップを受け付けずにフリーズ。違和感に対して遅れてくる機体のバイブ。それに伴い暗転する液晶と追随するような重厚な低音が着信を知らせる。
呼び出し主を告げる文字が画面中央に表示されていた。

「着信……? ……アスカから?」



16:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:50:44.715ID:qP4W4GDs0.net
戸惑う事20秒ほどだろうか。
ようやく事態を飲み込んだ俺は通話ボタンをタップした。

「もしもし……?」
『出るのが遅い! また風邪引いたらどうすんだ!』

紛れもなくアスカだった。
久し振りに聞くアスカの声はあの日以前と変わりない。
それよりもなんだ、今気になることを言ってなかったか?

『すいません、ちょっとスマホ放置してて』
返信しない女子か俺は。

『風呂じゃなかったんですか……?』
『ん。俺君電話するて言ってたの思い出して』

あー、なるほど。

『アスカさん』これは本当に言った。『今パンツ履いてますか?』

『はあ?』

うわぁ、やばいこの声ぞくぞくする。

「や、風邪とか言うから、もしかして上着とか着てないのかなて、ほら最近は夜だとまだ寒いしそれにふじこふじこ!」

やっぱりパンツは最後ですよね?
脱ぐならまず上からで、え、じゃあ今もしかして上は何も着てなかったりするんですか!?
当たり前だけどこれは言ってない。

『まだ履いてる』

答えてくれるんだ。

「ですよね、また風邪引いたら大変だし」
『誰のせいだと思ってんだ』

もー、と言った後にはぁ、とため息。

『どうしたの? 要件は?』

アスカはどことなくアニさんみたいな話し方になった。

「いや、えっと……」

肝心な時になにもでてこない。
沈黙が続いて切られることを恐れた俺は後先考えず、

「あの、バンド」

そのように発言していた。



17:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:51:03.312ID:qP4W4GDs0.net
「アスカさん家で聴かせてもらったCDすごいよくて、他にも聴きたいなあー……と……」
『そうなんだ!』

アスカさんの声は明るい。

『んー、いいよ。どうしよっか? また家くる?』
それはなんと魅力的な提案なんでしょう。
なんなら今直ぐに馳せ参じますので、どうかそのままのお姿でお待ちいただけますか?

『そっか俺君も気に入ったんだミラーマインド』
「あー、はい……えっと」
『?』

俺の歯切れの悪さにアスカさんが「ん?」みたいな声になっていない音を立てた。

「付き合ってるんですよね……」
『そうだよ』

即答された。

「いや、その、ええと、」

俺もう焦りまくりで言葉が出てこない。

その人、俺の認識ではもういないんですけど?
だから付き合ってるじゃなくて付き合ってた、ですよね?
でもそんなことは言えずどうしても会話が迂回する。

「大丈夫ですか? そんな、家くるとか言っちゃって……? やっぱりほら、怒られたりするんじゃないですか?」
『あはは。なんだそれw』

『大丈夫だよ』

『いーくんはそういうの気にしないから』



18:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 09:51:20.004ID:qP4W4GDs0.net
『遠距離長いからねー』

とか、そんな調子のことを色々言われた。
アスカさんが何か言うたびに胸が締め付けられた。
好きな人が恋人のことを嬉しそうに話してくるのが苦しいとか乙女チックな青春をしていたわけじゃない。だってその人個人ですよね。なんでそんな、今まさに幸せの絶頂みたいに話せるんですか?

『俺君さあ、よかったら今度ライブ行く?』

俺とは反対にどんどんテンションが上がっていくアスカさんが提案した。

「ライブて、なんの?」
『えwwwこの流れでわかんないの?w』
「……」

今度いつやるのかなー、確認してみるね!
そう言って自然と通話を切る流れになり、どうにか引き止めようとして俺は言った。

「アスカさん、あの……もう解散してますよね」
『    』
電話越しなのに空気が変わったのがはっきりわかった。

「いや、俺、自分でも調べてて、そしたらボーカルの人が、そのアレだって……」
『なんだよ』

感情のない機械でサンプリングしたみたいな声だった。

「ごめんなさい、俺、アホですよね? けどなんつうか、やっぱりはっきり言われた方が諦めつくし、あー、でも俺もちゃんと告白した訳じゃないし、そんで、あー、えっと」

正直あわあわしてたので何を口走ったか覚えていない。
まくし立てるみたいに話した。
なんとなくその先をアスカに言わせてはいけない気がしたからだ。

『わからない』
『俺君が何言ってるのか』
『なんで解散なの?』
『なんでそうなるの?』
『なんで?』
『なんで?』
『なんで?』
『もういいや、変なこと言うなら知らない』
『どう言うつもりか知らないけど、俺君そういうのよくないよ?』
『じゃあね』

空気が固体で視覚的に認識できるものだったなら、この時確かに俺の目の前は粉々に砕け散った。
アスカさんが言っている間、俺は制止の言葉を挟んだりなんか無闇に謝ったりしていたが、
そもそも彼女の言葉は俺に向けられていたのかさえ怪しく、二人で全く噛み合わない会話をしていた。

ぶつり、と通話が途切れる。



24:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 10:49:13.918ID:rNZ/48mS0.net
おもしろくなってきたね
でも変に脚色せず出来事を順番に正確に書いたほうがもっと良いと思う
小説なら好きに書けばいいけどこれはノンフィクションなんだろ?



25:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:07:22.960ID:qP4W4GDs0.net
>>24
会話の内容とかはどうしても覚えてない部分があるので脚色になってしまいます・・・
俺も内容くどいと思うんで描写もっと減らしますね。



26:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:37:27.187ID:qP4W4GDs0.net
すぐに掛け直したが切断された。
もう一度掛け直すと今度は話中。
よせばいいのに、やばいと直感した俺は数分後には車上の人になっていた。
運転しながらも震える手で何度もアスカに発信する。
よせばいいのに。
自分でも訳が分からなくなりながら、アスカ宅へ急いだ。



27:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:38:51.204ID:qP4W4GDs0.net
落ちそうなんでちょっと書いてたぶん貼ってきます。


車を飛ばして日中にも訪れたアスカ宅へ到着する。

インターホンを鳴らす。出ない。

電話もかけてみるが出ない。

無視されてるのだろうとも思ったが食い下がった。

それこそ通報されてもおかしくないくらいに何度も。



そんなことをしているとものすごい勢いで男がこっちに向かってきた。

ああ、ついに俺も前科持ちかあ、と思って観念したが男は俺のことなど無視。

あろうことかついさっきまで俺がそうしていたように、アスカの部屋を呼び出し始めた。



29:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:42:53.841ID:qP4W4GDs0.net
「ちっ……!」

鬼気迫る感じで舌打ちする。
男の事は松田桃太に似ていたので松田とする。
松田はどこかに電話をかけながら(状況的にアスカに電話をしてたんだと思う)インターホンを鳴らしまくった。

「なあ、あんた」

松田の視線が俺に向く。

「ここの人か?」
「違います、けど」
「そうか」

松田はそれだけ聞いて自分の作業に戻った。
アスカの部屋を呼び出しても応答がないと悟ると、
今度は連番になる部屋番号を呼び出し始めた。



30:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:43:43.008ID:qP4W4GDs0.net
「3××室に住んでるやつがやばいんだ! ロック解除してくれ!」

みたいなことを怒鳴ってる。
当然すんなり開けてくれる人などいない。
そんなことを数回繰り返していくうち、
ついにオートロックが解除された。

「ちょっと、すいません」
「あぁ?」

駆け込んでいこうとする松田を俺は呼び止めた。

「俺もついてっていいですか?」
「……?」
「その部屋の人、知り合いで、心配なんです」

松田は何も肯定も否定もしなかった。
一目散に駆け出していく背中を俺も追いかける。

「おい、アスカ! おい開けろ!!!」

部屋までたどり着くと松田はアスカの部屋の扉を殴りまくって叫んだ。



31:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:44:07.559ID:qP4W4GDs0.net
「おい、おいって!! 返事しろ、大丈夫か!?」

そんなことを繰り返していたと思う。
鬼気迫る勢いで、逆に俺はさっきまでの熱が引いていく。
止めた方がいいと思ったところに、管理人?みたいな人が慌ててやってきた。

「すんません、この部屋開けてください! 中で知り合いがやばいかもしれないんです!」

松田は冗談に聞こえない口調でやってきた中年の男性につかみかかった。
でもねえ、とか、そういっても、とかそんなやりとりがあった気がする。
最終的に松田の勢いに負けて、中年はアスカの扉の施錠を解除した。

「アスカッ!!!」

松田が部屋に入る。
あんたは? みたいな顔で俺を見ている中年を差し置いて俺も松田に続いた。

絶句。

部屋の中に入るとキャミソールだけを身に着けたアスカが壁に凭れ掛かっていた。



32:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 11:45:10.734ID:C5NRVnpxa.net
oh…


33:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:07:47.412ID:qP4W4GDs0.net
「アスカッ、おい! アスカ――ッ!」

アスカは、ぐったりしていたけれど目は空いていた。
胡乱な目つきで焦点が合っていない。どっか遠くを見ているみたいだった。

ここに至ってことの緊急性を察したのか中年が血相を変えて部屋を出ていく。
戻って救急か、警察でも呼ぶのだろうか?

「おい、おまえ。【俺君】か?」
「……え、はい」

なんで俺の名前を知ってるのかとか、一瞬気になったが考えるまでもなかった。
松田が舌打ちする。

「おまえもう帰れ」
「……」

帰れと言われて素直に帰れない。
こんな状況目の前にして立ち去れるならそもそもここまできていない。

「なんでこうなってるか、想像くらいできるだろ?」
「……なんとなくは」
「ちっ……。また連絡するから今は帰れ。おまえがいてもなんもできねーだろ」
「いや、俺は……」

そこで思いっきり殴られた。



34:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:08:07.215ID:qP4W4GDs0.net
本気で人に殴られたのは初めてで、痛いとかよりも先に驚愕した。
こう、自分の体の制御が利かなくなって、上半身が背中から落ちていく感じ。

「……いーくん?」

ようやく思考が事態に追いついて、同時に頬、というか骨格?とにかく顔が痛くなる。
耳鳴りの中、アスカの消えそうな声が聞こえた。

「違う。俺だ。松田だ」

定まらない焦点をアスカと松田に向ける。

「よかったぁ……。電話してもでないから、心配したんだよ……?」
「はあ? ……おいしっかりしろ、アスカ」
「電話出てよ、いーくん。いーくん……。電話……出て?」



35:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:08:19.160ID:qP4W4GDs0.net
うわ言みたいだった。
松田がアスカの手からスマホを取り上げる。
液晶が点きっぱなしの画面を松田が覗き込む。

「――ッ!!!!!!」

声にならない、息を喉の奥まで吸い込むみたいな音が松田から聞こえた。

「アスカさん……?」

痛む患部を抑えながら覚束ない足取りで俺もアスカに近づく。
松田に止められるかと思ったが、松田はスマホを凝視して動かない。

「いーくん……」

アスカの涙声が痛い。

「アスカさん、俺でも。……しっかりして下さい」

状況に置いて行かれそうになりながら、なんとかそんなことをいった。
何かしないといけないと思い自分の上着をアスカに被せる。
その後、いけないと思いながら松田の手の中の携帯を覗き込んだ。

多分、発信の履歴だと思う。

上から下まで、びっしりと全部、同じ名前が表示されていた。



36:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:18:46.511ID:rNZ/48mS0.net
Nice boat.


37:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 12:42:26.126ID:qP4W4GDs0.net
>>36
やめろめろ



47:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:36:46.621ID:qP4W4GDs0.net
会社呼び戻されました。
ちょっと書いたんで載せときますね!

それから、住人か中年かが呼んだと思われる警察に聴取を受けた。
警察の感じだと痴情のもつれか何かだと思われているらしかった。
当人たちのことは事件性はないものとして深くつっこまれることはなかったが、
住居侵入?みたいなことをしてしまった件については厳重注意を受けた。
中年の希望としては今後立ち入って欲しくないとまで言われたらしい。
後で聞いたがアスカの携帯から両親へ電話もしたとのことだが結局繋がらなかったらしい。

警察から解放された後、ぐったりしたアスカは松田が連れて帰った。
別れ際、松田が俺に言った。

「大学生?」
「はい」
「明日の夜時間いい?」
「大丈夫です」

ちなみにバイトだったが腹が痛いとか言ってばっくれた。正直すまんかったと思う。
そして翌日。
見知らぬ番号から携帯に着信。
松田だった。



48:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:37:07.812ID:qP4W4GDs0.net
『今どこ?』
「あ、自宅です」
『今から会える?』
「はい」
『じゃあ××のドトールわかる?』
「たぶん…大丈夫です」
『ならそこで。今から向かうから30分くらいでいけると思う。さきついたら店入ってて』
「わかりました」

手短いに済ませて待ち合わせ場所に向かう。
先に到着した俺は何故か店内に入らず店先で松田を待った。
遅れる事5分ほどで松田が現れる。
松田は仕事終わりからそのまま来たのかスーツ姿で、
顔がいいからやけに似合っていた。



50:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:38:57.727ID:qP4W4GDs0.net
「中入ってて、て言ったじゃんw」
「すいません」
「待たせて悪かったな。あ、まだ顔痛む?」

昨日のことを心配して松田が聞いてくる。

「はい」
「俺もいっぱいいっぱいだったから加減できなかった、すまんw」

すまんじゃねえよ。こっちはあわや昇天しかけたんだぞ。

「とりあえず中入ろうか」

促されるまま松田と店に入る。
隅っこの方に男二人で座り、松田がすぐに席を立った。
戻ってきた松田はトレーにコーヒーを二つ乗せていた。



51:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:39:22.135ID:qP4W4GDs0.net
「おまたせ」

ナチュラルに奢られた。
正直かっこよかった。
同時に、昨日の事もあり引け目を感じる。

「えーと……」

委縮してしまって自分から話さない俺に、
松田は頬をぽりぽりやりながら話の切り口を探しているみたいだった。
身も蓋もない話題を2つ3つ消化してから、

「アスカからまあ……俺くんのこと聞いてる」
「そうですか」

ストーカーとか勘違いボーイとか言われてるんだろうか。

「いろいろ迷惑かけて悪かったな。そんで、単刀直入に言うわ」
「はい」
「アスカのこと好きなら、やめた方がいい」

それはいつかアニさんに言われたことだ。
今となってはその意味が全然違って聞こえるが。



52:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:39:56.251ID:qP4W4GDs0.net
「もちろん一方的にもうあいつに近づくなとか、昨日の事は忘れろとかは言わない。殴っちまった手前、こっちの事情も簡単に話すつもりではいる」
「その……アスカと付き合ってるんですか……?」

言ってから自分の聞いていることがすごく幼稚だと思った。
松田は、いやいや、と手を振って否定した。

「それはないよ。あいつの男は俺らのリーダー」
「リーダー……?」
「そ。ミラーマインド」

すっ、と腑に落ちた。
その可能性はちょっと考えれば思い至っただろうのに、
松田の容姿が全然バンドマン然としていなかったので考えていなかった。

「あー……と。その、リーダーの人って」
「うん。死んだよ。3年前に」



53:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:41:39.102ID:qP4W4GDs0.net
怒られるかな、と思ったけど松田は怒気のない声で言う。

「俺とあいつはガキの頃からの付き合いで……幼馴染ってやつ? 小学校から大学までいっしょだった。他のメンバーは年上だったんで、俺らが大学出るタイミングで上京して本気で音楽やろう、てことになったんだ」

で、いざ上京したら、

「あいつ、路上でさされて死んだ。アホなカップルの痴話喧嘩で、逆上した男に刺されたんだと。ドラマみたいで笑えるだろ?」

何が笑えるのだろう。無理して笑ってる松田に合わせて俺も笑うべきだったのかもしれないが、俺は全く笑えなかった。

「そんでさ、その頃はもうアスカとあいつは付き合ってたんだけど、アスカは葬式には来なかった。
当日に俺が家まで迎えに行ったけど、自分はあいつが返ってくるのを家で待ってるんだと。
そっからは時々アスカから俺に連絡がきたよ。
そっちではライブしてるのか、とか。GWやら盆やらは戻ってくるのか、とか。
だんだん頻度は減ってきたけど、昨日、久しぶりに電話きてさ。チケットくれだとさ。なんか俺くんといっしょに見に来るて言いだしたんだ」

昨日俺が掛け直した時、話し中だった相手は松田だった。



54:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:21.572ID:qP4W4GDs0.net
「そんなこと今までなかったからちょっと焦ったよ。アスカのことは気にして会うこともあったけど、もう立ち直ったと思ってた。
意識してあいつの話題は出してなかったけど、全然そんなことなかったのな。あいつは結局、なんの現実も受け入れられてなくて、
今でも自分の恋人は元気にギター弾いて歌ってるんだと、思ってる」

昨日のことは気にすんな、と松田は付け加えた。

「アスカがああなったのは多分俺のせいだ。あいつの葬式の日みたいに、感情が死んじまったみたいなアスカの声なんて久しぶりに聞いたから、ちょっと、きつく言っちまった。死んだやつの事だろ、もう忘れろよ! ……てな」

俺の事を気遣ってくれてるのかもしれなかったが、どこか疎外感を感じて鬱になった。

「昨日は俺の家に泊めた」

まさか……へんなこと、にはなってませんよね?

「仕事行く前はまだ寝てたけど、嫁さんから目覚まして落ち着いてるて連絡来たから多分大丈夫だ」
「そっすか!」
「おお……急に元気だな」

松田が既婚者だと知って俺のテンションが2割増しになった。
それから色々と松田と話した。
死んだボーカルの人はどんな人だったのか、とか、今はどんな仕事してるのか、とか。ぶっちゃけ昨日のアスカの格好を見てどう思ったのか、とか。
俺はことがことだったので思い出しても全然興奮しないのが残念だったが、不謹慎な気がして言えなかった。

「ま、ああいう状況じゃなきゃ勃つわな」
「www」



55:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:43.093ID:qP4W4GDs0.net
イケメンが言うと下種なのにかっこいいなー。
俺は不思議と松田と意気投合した。
それは俺たちが共にアスカを大切に思っていることが理由なのかもしれない。
松田はどうみても俺と違って本物のリア充でヤリチン野郎で既婚者だったが、アスカの存在が壁を取り払ってくれていたのだと思う。
言っても、俺のはガキの片思いで、松田のそれは親友の恋人を気にする大人な気持ちだったわけだが。

「そういえばさ」

話が盛り上がって、俺がコーヒーのお代わりを打診したのを断った後、松田が思い出し笑いする。

「おまえ、アスカと知り合ったのパチンコ屋なんだって?w」
「あー、はい」
「去年の年末くらいだろ?w」
「ちょwアスカに聞いたんですよね?w」
「まあな。なんか焼肉奢ってもらったとか、おまえのこと変なやつだって言ってたぜ?w」

まさかほとんど出会ったばっかりの頃に、アスカの口から俺の存在が第三者にリークされていたとは・・・。心底意外だった。



56:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:42:59.209ID:qP4W4GDs0.net
「アスカ、あいつの影響でスロットやり始めたんだよ。俺もあいつに連れてかれたわw」
「あ、松田さんもスロやるんすか!? 今はまどマギが熱いすよね!」
「いや、もうやってないよ」

ほむぅ。

「まどマギは知ってるけど」
「マジすか!? 俺、世間ではネタにされてるけどさやかさん好きなんすよ! 5人の中で一番えろい体してると思いません!?」
「あ……うん。そうかもね」

松田はめちゃくちゃ引いてた。

「松田さんアニメとか見るんすか?」

キモオタは自分のフィールドだとノリノリだ。

「見るよ」
「!」
「ゴルゴとか」
「( ;∀;)」



57:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:43:28.812ID:qP4W4GDs0.net
俺の暴走モードを遮って、

「俺くん、アスカのどこが好きなの?」

松田がガールズトークを持ち出してくる。

「どこって……」
「顔?」
「やー……」

かわいいと思うけど、外見に惚れたというのは薄っぺらい気がして濁す。

「あぁ、胸か」
「違いますよ!?」

いーっていーってみたいに茶化される。いやほんとに違うよ?
そこからからかわれながら俺は松田に心中を赤裸々に暴かれた。
誘導尋問を受けるみたいに、アスカのこういうところが好きだ、とか、ホールではしゃいでる姿が気になった、とか、ぼろ負けして死にそうになってるときに優しくしてもらった、とか。
言えば言うほど、俺は松田よりよっぽどアスカを知らない事を自覚させられて、だったらきっと、例の彼氏には足元にも及ばないことを思い知らされた。
そもそも男の影響でスロット始めたなら、俺が店で見てたアスカは本当のアスカじゃない気がして苦しくなった。



58:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 15:44:58.449ID:qP4W4GDs0.net
アスカが番長ばかり打ってる理由も、松田が話してくれた。

「あいつがアスカに告ったのさ、大学の卒業式の日なんだわ。ぶっちゃけそれまでも付き合ってるみたいなもんだったんだけど。
……そうそう合宿ついてきたりとかw」

この辺聞くのが鬱すぎて聞き飛ばしてました。
話は告白に戻る。

「弱いくせにめっちゃ酔ってて、あいつ夜中にアスカのこと呼び出したんだ。で、どうしたと思う?」
「わかりません」

イケメンリア充のやることなど俺には想像もつかんし知りたくもない。

「近くの公園で弾き語りして告白。そんとき歌ったのがスロットの番長の曲」

こんな感じ、とメロディーを鼻歌で聞かされて、にわかな俺でもそれが【distance】だとわかった。アスカがしょっちゅう口ずさんでいたので気になって何度もネットで聴いた。


https://www.youtube.com/watch?v=7xJhooDoEB8



64:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:23:28.124ID:qP4W4GDs0.net
なんで告白でディスタンスなのかと思ったけど、その時本人がはまっていたかららしい。
そこからは取り留めのない会話をして解散の流れになった。
店を出てから最後に、

「俺くんがどのくらいアスカのことを好きなのかはわからないけど。あいつがまだ吹っ切れていないてわかった以上、そっとしておいてやって欲しい」

そう言われた。
てっきり俺がアスカを変えてやる流れじゃないのか?と思い、そんな感じの冗談を言えるくらいには松田と仲良くなったつもりだが、あんまりにも真剣な顔で言われて俺は黙った。

「多分まだ時間がかかると思う。なんかの拍子に昨日みたいなことになるかもしれない。その時、万が一のことがあったら、俺や俺くんが必ず守ってやれる保障はないだろ?」

ガキの恋愛の尺度とはかけ離れた意見だと思った。
だから俺は「ご迷惑をかけてすいませんでした。アスカさんに謝っておいてください」とだけ言って、松田と別れた。



65:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:28:14.887ID:qP4W4GDs0.net
それから一か月くらいは何もなかった。
ゼミの選択とか、定期考査とかに追われつつ、普通に大学に行ってバイトをしてとまともな生活を取り戻した。
もちろんスロットも打った。
番長は打たなかったが依然と同じまど豚に返り咲いた。
途中何故か輪廻のラグランジェに浮気もした。
ほむほむはいなかったけどまどかがいた。

ただアスカと出会った店にはいかなくなった。
もしかしたらまだアスカはあの店で番長を打っているのかもしれないが、顔を合わせるのが嫌で避けていた。

少しずつアスカのことを忘れ始めていた頃、
アスカから着信が来た。



66:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:31:24.266ID:qP4W4GDs0.net
『もしもし俺くん?』

一度呼び出しが途切れるまで出る決断が出来ず、
直ぐに掛かってきた二度目の着信に応答する。
不安そうなアスカの声が呼び掛けてきた。

「はい……アスカさん、ですよね?」

携帯同士のやり取りでなんか変だなと思った。
アスカは、なんていうかしおらしい感じの、しゅんとした雰囲気だった。

『うん。久しぶりだね』
「はい。……なんていうか、その、元気でしたか?」

最後に見たアスカのぐったりした姿を思い出す。

『もう大丈夫。……だと思う。その節はご迷惑をおかけしました』
「話、聞きました」
『そっか。……あはは、なんか恥ずかしいね』

その話題に触れればまた松田さんに迷惑をかけると思ったが、
気づいたらそんな言葉を返していた。
大急ぎで会話を路線変更する。

「どうしたんですか? あっ、アスカさんから電話してくれたの初めてですよね!?」
『うん。迷惑かけちゃったから……ちゃんと謝らないといけないと思って。俺くんも、翔ちゃんに殴られたみたいだし』

それ、男として恥ずかしいので触れないでもらえます?

『わたし、こんど引っ越すことにしたんだー。いろんな人に迷惑かけちゃったし、なんか、いずらいし。実家戻ろうかなー』

とつとつとアスカは様々な話をした。
実家がやたらと厳しいこと。
通っていた大学も、自然といかなくなってやめたこと。
例のボーカルとの馴れ初めなんかも聞いた。



67:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:31:41.527ID:qP4W4GDs0.net
『大学は、親に指定されてた。ものすごく頭のいい大学ってわけじゃなかったけど、お父さんとお母さんが卒業した大学だから、て。
だから頑張って頑張って……。勉強は苦手じゃなかったけどしんどかった。模試の結果がA判定じゃなきゃその度に吐いたりした。
友達とも遊ばなくなって、ずっと勉強ばっかりしてた。
そしたら仲が良かった子が、自分のお兄さんのバンドのライブに誘ってくれたんだ。
ライブハウスなんて行ったことなかったし、バンドとかも全然詳しくなかったし、なによりきっと怒られるから断ろうと思った。
でもわたしのこと心配して言ってくれてるんだ、て思ったらなんだか断れなくて。当日、わたしは親に嘘ついてライブを見に行った。
びっくりしたなあ……。こんな世界があるんだって。
色んなバンドの人たちが好き勝手歌って演奏して、すごくうるさくて耳が痛くなって、揉みくちゃになって足を踏まれたりしたけど、すごく楽しかった。
演奏が終わったら帰ろうと思ったけど、友達がお兄さんに捕まって、一人じゃ帰れないから隅っこで座ってた。
そしたらいーくんが声をかけてくれた。
たぶん、ナンパ……だったと思う。お酒も飲んでたみたいだし。いーくんお酒弱いのにすぐ飲みたがるんだw
どーして来たの?とか、誰かのファン?とか。
ちょっと怖かったから愛想笑いしてたら友達がお兄ちゃんと一緒に助けに来てくれた。
この子こーいうところ慣れてないんですよー、みたいに言って、
今日は勉強の息抜きて説明してた。
そしたらいーくんはわたしに、
「なあ、今日楽しかった?」て聞いてきて、その質問だけはわたし本音で答えられたんだ。
そしたら「また来いよ」て。お酒で顔真っ赤にしながら笑って言われた。
たぶん、そのときわたしはいーくんのこと好きになったんだと思う』

聞き上手な男がかっこいいと思っていた俺は、アスカの話を最後まで黙って聞いた。相槌も打たなかったと思う。



68:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:32:02.081ID:qP4W4GDs0.net
『友達にお願いしてもう一度だけライブハウスに連れて行ってもらったんだけど、その日は参加してなくて。
落ち込んだけど、その後いーくんからメールがきてびっくりした。
友達のお兄ちゃんが取り次いでくれたんだって。
それから家のこととか、勉強のこととか相談に乗ってくれて、
「で、おまえはどうしたいの?」て言われた時、
「いーくんの彼女になりたい」て言ったら、
「なんだそれw」て笑われた。
本気だったからすっごく悲しかった。
それで初めて親に反抗した。
もっと勉強頑張って、いい大学に行くから下宿させてくれて。
納得してくれなかったから勝手に学校で進路志望提出して、
模試の判定見せたら「勝手にしろ」だって。
わたし、いーくんのおかげで変われたんだ。
受験までわたしが全然ライブに行かなかったから、
どーしたんだって、いーくんに聞かれて。
受験勉強だからいけないって言ったことがあるんだけど、
また根詰めすぎてるんじゃないかって心配されて、それで、それで、今、楽しいから大丈夫って答えたら、
「バカだなあ」だって。
それで、それでね……それ、で…………』

ぼろぼろになりながら、アスカが最後に言った。

『……俺くんに会いたいなあ』



71:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 17:37:56.829ID:rNZ/48mS0.net
泣いた


76:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 18:25:24.479ID:qP4W4GDs0.net
松田との約束を破るみたいで煮え切らなかったが、結局アスカとは会うことにした。
何かあったらきっといろんな人に迷惑をかけると思ったが、
電話越しに泣いているアスカを放っておけなかったし、
自分の気持ちだって全然吹っ切れていなかった。

居ても立ってもいられなくなって車に乗り込んですぐにアニさんに電話した。

「俺やっぱり好きです!!」
『あたしは年下お断り。ぱしりにならしてやるけど』

この人いつの時代のヤンキーなの?

「あんたじゃねえよ!」
『あっそ。で、なに? また女々しい相談?』
「だから好きだって!」
『ありがとう』
「違う!」

たぶんこんなやりとりをした。
テンション上げすぎてて空回りしたんだ。

『例の女ならやめろって言っただろ。チ〇コの毛までむしり取られるぞ』
それは是非に。ではなく。
「計算高いアホ説やめてください! それ間違いでしたから!」

かくかくしかじか。
なるべくプライバシーに触れないように配慮してことの経緯を説明する。
アニさんは、

『うげえ……』

本心から引いてるみたいだった。

『痛てぇ……おまえそれアニメ見すぎ。童貞の妄想激しすぎるわ病院行け』
「これマジなんすけど」
もう俺が童貞なのか素人童貞(アニさん+1名)なのかはどうでもいい。

『やめとけって』

口調が変わった。

『それがマジだとして、おまえに何が出来んの?
その女に昔の男忘れさせられるほどの甲斐性なんてないだろ?』
「そりゃあ……けど俺は……」
『俺は?』
「アスカが好きだ」

アニさんは、きっも、と言っていた。

『あー、じゃあもうそれでいいんじゃねーの?』
「はい?」
『なんもできないより、好きでいられるだけましだろ。もういいか? どうせあたしが何言っても聞かんだろ、おまえ』
「はい!」

達者でな、とアニさんは電話を切った。
俺は何故だか凄まじい死亡フラグを立ててしまった気がしたが、
構わず信号と制限速度を無視して車を走らせた。



77:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 18:26:02.971ID:qP4W4GDs0.net
細い坂道を登り切ると、小さな神社がある。
その麓?車が走れる幅の道の果てにアスカの家はあった。
道幅のせいで徐行を強いられるのがもどかしかった。
到着してアスカを呼び出す。
待っている間にすれ違った住民に熱い視線を送られたのが怖かった。

「……おまたせ」

懐かしい、初めて会った時のショートパンツにパーカー姿のアスカ。
ずっと家にいたのか髪はぼさぼさで、タイツは履いていなかった。
アスカはひらひら手を振って近づいてきた。

「アスカさん、俺、言いたいことがあるんです。話したい事、聞いてほしい事、うまく言えるかわかんないですけど、伝えたいことがあります」

アスカに駆け寄って肩を掴むと、自然とそんな風に口走っていた。

「ダメ」

短い拒否の言葉。

「わたしは俺くんの気持ちに応えられないよ? だから言わないで」

この時初めて。
俺はアスカに振られた。



79:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:42:52.712ID:C5NRVnpxa.net
wktk


80:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:46:10.206ID:QpGUt7vXH.net
これまだ残ってるてことでいいですか?
残ってたら続き書きます



81:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:47:06.977ID:6zyZcooe0.net
たのまあ


82:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:48:07.092ID:QpGUt7vXH.net
>>81
おk
とりあえずMAJOR10巻まで読んだら始めます!



83:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:50:46.965ID:1/YBDgcj0.net
>>82
なによんどるんじゃぼけ



84:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 19:52:46.018ID:6zyZcooe0.net
>>82
は?



85:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:04:24.773ID:QpGUt7vXH.net
ちょっと待って、今おとさんイイトコロ・・・
なんか投下できてない分残ってたんで先貼ります。


「俺、は」

喉元を握られてるような気分だった。うまく言えないけど発声できない状態。
アスカは、

「ごめんね」

街灯の光が頬に当たっていて、それを避けるみたいに首を傾けてほほ笑んだ。

「わがまま言ってごめん。会いたいって言ったのは、そういうことじゃないんだ」
「だったら……っ」

だったらなんなんですか、という前にアスカが俺にスマホを突き出す。

「今はまだ俺くんの気持ちに応えられない。
わたしは、いーくんがいなくなった日から立ち止まっちゃったから。
俺くんのいる場所にわたしはいない。だから進まなきゃいけないの。だからお願い。俺くん」


棒立ちする俺の手に突き付けられたスマホが乗せられる。



86:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:05:38.779ID:QpGUt7vXH.net
「自分じゃできないから、全部消して」

なにをすればいいのか流れでわかった。
スマホのロックは解除されている。
ホーム画面から記憶に新しい通話履歴を呼び出す。
発信の一番上に、俺の名前、その下はあの日見たものと変わりなかった。

「俺くん……?」

俺は。
俺は、預けられたスマホを突き返した。

「ごめん、なさい。できません」

履歴を消すだけじゃない。アスカはデータ全部を消してくれと言っているんだ。
だけど俺にはそれができない。



87:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:06:36.264ID:QpGUt7vXH.net
「俺が、俺が好きになったアスカさんは……今までも全部含めたアスカさんだから」

全身ががくがく震えてしゃくり上げるみたいにしか話せなない。

「あの日俺が出会ったアスカさんは、それをしてしまったらいなくなるから……っ」

アスカは一人で感極まる俺を黙って見てた。

「消しちゃダメなんですよ。そんなことしたら、きっと、壊れる」
「どうして……?」
「わっかんねえよッ!」

女々しいけれど、昔の男の思い出なんて消してしまいたい。
アスカの中にいる『いーくん』を一遍も残さず消し去りたい。
それで、まっさらになった彼女と恋が出来ればどれだけいいだろう。
一方的な気持ちかもしれないし、アスカの中に彼がいる限りきっと俺なんかじゃ敵わない。
アスカが思い出して辛くなる思い出も、
苦しい時に支えにする幸せも、そのどこにも俺はいない。
それでもダメなんだ。理屈じゃなくそう思った。



88:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:07:12.115ID:QpGUt7vXH.net
「頭大丈夫か、あんた?
俺があんたのこと好きだって気づいてたんだろ?
その癖のろけ話なんて泣きながら聞かされて、
急に呼び出されたと思ったら振られたんだぞ?
忘れたいからデータ消してくれとか、そんなこと俺に頼むなよッ!
自分勝手なんだよアスカは!!
未練断ち切れてないくせに、頭おかしくなるほど好きな男がいるくせに、
できもしねえのに忘れるなんて言うなよ!」

「……だったらどうすればいいの?
みんながいーくんはもういないって、
翔ちゃんは優しいからゆっくりでいいて言うけど、
俺くんにも迷惑かけて、それで、どうして」

「3か月!」

「なに?」

「3か月待って」

「……はあ?」

「俺に……時間をください。お願いします」



89:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 20:33:07.918ID:CK7u4Hi00.net
MAJOR読んでんじゃねーよ
ジャイロボールぶつけんぞ



92:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:39:43.372ID:QpGUt7vXH.net
「タケシ、サークル軽音だったよな?」
「あ? うん」
「もう辞めたよな。バンドやってもモテなかったから」
「やかましいwなんだよ?」
「ギター貸してくれ」
「はあ……。いいけど、こんな時期にサークル入んの?」
「まあ、そんな感じだ」
「いいよ。じゃあやるよ、俺のギター」
「まじで?」
「中古だから6万な」

俺はタケシの脛に黄金の右を食らわせた。

次にやったのは大学のPCで適当なフリーソフトをダウンロードし、動画サイトにアップされている動画の音声を抜き取った。
卒論用に新調したUSBに保存したそれを講義が終わってからアニさんのところへ持っていく。
アポなしで押し掛けたため不在だった。
電話をしてもなかなか出ない。
とりあえずラインを送って帰りを待った。

『はよ帰ってこい。どこで遊び回ってんだこのビッチ』
『童貞腐らせながら一生待ってろ』

あまりにも帰りが遅いので挑発するとそんな罵倒が返ってきた。
ふむ。
やはりアニさんの言葉責めでは俺は上がらない。



93:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:41:16.682ID:QpGUt7vXH.net
仕方なく近くのパチンコ屋で時間を潰して、やっとアニさんとご対面。

「アニさんのせいで2万負けました」
「知らんがな。で、なんだ?」
「これ」USBを差し出す。「中に音声入ってるんでギターの譜面にしてください」
「はあ? 悪いけどあたしは見かけによらず芸術方面はダメだぞ」
「期待してませんよ、アニさんには」

アニさんの無言の肩パン。
しかし俺は動じないし感じない。
「アニさんならそういう知り合いくらいいるでしょ、無駄にケツの穴が広いんですから」
「顔だろ。それならおまえ一人沈めても揉み消せる程度には広いな」

土下座。

「すんません、アニさん、お願いします! 今はないですけど金なら払います!」
「なんだよおまえ。必至だな。まあいいよ。そういう知り合いに頼んでやる」
「!」
「とりあえず今から飲み行くから奢れ。それで勘弁してやるよ」
「りょうかいです!」
「金あんじゃん」
「……」



94:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:42:12.890ID:QpGUt7vXH.net
この人本格的にただのチンピラだったわ。
その後は近くの居酒屋ステージで奢らされ、
酒気帯びになるので俺は今回もアニさんの家に泊まった。
アニさんはアスカとのことは聞いてこなかった。
だから俺も何も言わなかったが、
なんとなくこの人は察してくれたのか、家に戻って電気を消してから、

「知らん間にいい男になったな」

とか言われた。
口説かれてる?
そこもっとタルホさんみたいに言って?
軽口交じりに「アニさんには及びません」と言ってから、

「でも、やんないんですよね?」

念のため確認した。

アニさんは答えないで、代わりに寝息を立てていた。

俺は、薄着で寝るアニさんのパンツで抜いてから就寝した。

確かに俺は変わった。



95:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:42:28.486ID:QpGUt7vXH.net
後日談。
松田に電話した。

「松田さん、ギター教えてください!」
「あ? 俺ドラマーだし」
「(*´Д`)~~」



96:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:43:37.286ID:QpGUt7vXH.net
ここまで来ればさすがに俺のやろうとしてることは言うまでもないと思う。
俺は先人にあやかって、弾き語りでアスカに告白することを決めた。
賛否両論あると思うが、あの時の俺にはそれが一番だと思えたからだ。
例の一件から3日と経たず、首尾よくギターは入手した。
6万はツケにした。
アニさんに頼んだ譜面は1週間ほどで出来上がったらしい。
ギターを手に入れてから10日ほど経って俺の元にやってくる。
その間に、俺は卒論の研究が忙しいとぼやくセイヤに手ほどきを受け、ギターの基礎を学んだ。
これで譜面が手に入れば余裕だと思っていたが、
理屈で音の出し方をわかってるのと、
譜面をさらえるのとはまた別で、
実際、譜面を見ながら思い通りの演奏をするというのはなかなか上手くいかなかった。
しかも歌まで歌わないといけないから骨が折れる。
独力の限界を感じ、俺はドラえもんに依頼した。

『どら焼きやるからギター教えろください』
『レクイエムでいいか?』



97:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:44:04.890ID:QpGUt7vXH.net
アニさんの無駄に広い人脈をいかし、無事コーチをゲット。
ある程度弾けるようにはなったが、コーチ曰く、

「俺に教えられるのは技術まで。生まれ持った才能には手の付けようがない」

その意味を俺は未だに理解したくない。
中学の頃の音楽の成績は常に2だった。



98:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:44:46.862ID:QpGUt7vXH.net
約束の3か月が経つ前に俺はアスカに連絡を入れた。
白状すると心が折れた。
一月半ほど練習して、最初のほうはできるようになったのでそれで妥協。

『今週、会えますか?』
『ちょっと厳しい』
『……そこを何とか』
『手帳見る』
マジで見て。
『〇曜の夜なら、いいよ('ω')ノ』
『ありがとうございます!!』
『また連絡します!』
『り。待ってるね』

こんなやり取りをした。
当日俺はアスカを迎えに行くために約束の時刻の1時間ほど前にメッセージを飛ばした。
きっちりと1時間後に返事が来た。



99:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:45:31.676ID:QpGUt7vXH.net
『今終わったー』
なにがだろう。
『俺くん家ー?(*´з`)』
なんだその顔文字。
『アスカさんの家まで来てますよ。ここで待つの通報されそうなんで早く戻ってきてくださいw』
『あー。わたしもう引っ越したよ』
『ちょw言ってくださいよw』
『ごめんw迎えに来てくれる?w』
『もちろん!www』

で、二駅くらい隣の駅で待ち合わせ。
時間も遅いので明るいところで待っててくれるのは安心した。
駅のロータリーに止めると近くの本屋からアスカが出てきた。
スタバとかあるんだからその辺で待ってればよかったのに。



102:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:46:27.657ID:QpGUt7vXH.net
「お待たせ。ありがとー」
アスカが助手席に乗り込む。

「わ、なにこれ、ギターケース?」
「はい。アスカさん、どっか、人気のないところありますか??」
「え。きもい」

マジで言われたんだw
そしてやっぱりアスカの暴言は下半身に来る。アニさんとは大違いだ。
なんとなく雰囲気とかギターとかでアスカもこの後自分が何をされるのかを悟ったようで、

「あー……じゃあ、とりあえず××の方向かって」

とかナビをし始めた。
アスカの誘導に従って気づけばホテル街へ!とかならよかったのに、
たどり着いたのは廃れた公園だった。
砂場とウンテイと縄でつるされたタイヤみたいな遊具とジャングルジム。それと無駄に長いベンチが一つ。
公民館と総合センターの近くのそこは、確かに時間帯のせいか人気がなかった。
問題は交番が近くにあったことだけど。



103:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:47:12.973ID:QpGUt7vXH.net
駐車するところがなくて少し遠いがコンビニの駐車場を借りた。
で、ギターケースを担いでアスカと並んで歩く。

「大学に行くんだ」
「え? 誰が?」
「わたしだよw」
「そすかw……え?」
「途中で辞めちゃったからちゃんと卒業したいな、て」
「……」
「今はバイトして、お金貯めて、それで、勉強してる。もともと勉強は苦手じゃないし。さすがに公立とかは無理だろうけど。私立ならなんとか……貯金も、ないことはないし」
「それなら俺が手伝いますよ! アルティメットバトルぶち込んで稼いできます!」
「そんな生き方してると結婚できないよ?」

これには俺のアイアンハートもぼこぼこになった。



106:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 21:49:15.141ID:QpGUt7vXH.net
「いいの。自分で始めないと意味ないから。
ちゃんと大学に行って、ちゃんと前を向いて、ちゃんと、自分の力で生きていかなきゃ。
わたして、ちょっと他人に依存するところあるからさー」

その依存先に俺は成りたいんだよ。
アスカに頼られたくて、頼ってもらえるような人間に見られたくて。
だから俺は歌うって決めたんだ。



110:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 22:49:45.529ID:QpGUt7vXH.net
ギター「ディィィン」

最初からおもっきりミスった。

「あ、今のなし! やり直すんで待ってください!」
「……」
「すぅー、はぁー……」


♪もう↗ふーりー↘むぅかじゅ……


緊張しておもっきりかんだし音外した。


「もう一回。……もう一回、やっぱ外だと緊張して…」

「あはは」

面接官みたいな無表情で見ていたアスカが初めて笑った。

それから何度も何度も途中でやり直して、
アスカに笑いながら茶化された。

ガンバレー、と言われるたびに情けなくなった。

途中からギターなんて弾いてるのか適当に音を出してるだけなのかわからなくなって、
歌だって散々。

だけどアスカは最後まで聞いてくれた。

だから俺も最後まで歌った。


きっと『いーくん』の告白はこんなぐだぐだしたものじゃなかったんだろうな。
アスカの家で聞いてから、今日これを書いてる今まで何回も『いーくん』の歌は聴いた。
その度に自分と比べて悲しくなった。



111:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 22:50:07.843ID:QpGUt7vXH.net
俺は『いーくん』に会ったことはないけど、
絶対に俺は『いーくん』にはなれないのはわかる。

同じことをしようとしてもできない。

あの日の失敗があるからそう思うんじゃなくて、今現在もやっぱりそう思う。

だから忘れさせるんじゃなくて、成り代わるんじゃなくて、
俺は俺として、彼を忘れられないアスカを幸せにしたい。

アスカの中のあの人もひっくるめて好きで居続けたい。

それができるのは俺だけだなんて傲慢だけど、
きっと俺以上にそう強く思える男はいない。

必死にギターを弾きながら、歌いながら、
そんなことを考える余裕はなかったけど、

たぶん、余裕があったらそう思ってたんだろうな。


それで、届け、届って、気持ちを歌に乗せるってこういうことなんだな、て思いながら、
人生で一番好きになった人に歌いかけるんだ。

何度も言うけどそんな器用なこと俺にはできないから、


「アスカさんが好きです。俺と付き合ってください」


全部吐き出すみたいに歌い切ってから、もう何の捻りもなく告白した。
アスカさんは笑い疲れたみたいな表情で、目の端に涙を溜めて言った。


「……バカだなあ。俺くん……バカだなあ」



112:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 22:53:43.481ID:QpGUt7vXH.net
ごめん、ほんとにほんとに最後にこれだけ付け足す。
オチとかないし、ハッピーエンドじゃないし、

釣り宣言とかでもないけど、これを言わないとスレ立てた意味がない。

それから今日に至るまでの俺とアスカの関係は「恋人」ではないと思う…。
残念ながら。
けどそれらしい関係だということは多分俺の思い込みじゃない。

公園で告白して、なんかよくわからん反応をされて(『いーくん』の引用だと俺は勝手に思ってる)なんか気持ちを確かめられないでいた。

けど少なくとも今日に至るまでアスカに彼氏はできていないし、
少なくとも俺以上に個人的にあってる男はいないと思う。

一応ここにかけそうなエピソードがもう一個だけあるから書かせてほしい。



114:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:14:41.450ID:QpGUt7vXH.net
公園での一件から少しして俺とアスカは『いーくん』の墓参りに行った。

盆とかお彼岸とか命日とか全く関係ない日だった。

二人して墓の名前で手を合わせて線香を上げた。

アスカがちょっとどっか行ってて、て言うからあー、泣くんだろうな、と思って、離れるべきか残るべきか迷った。

残ったよ?

だって嫌じゃん、自分のいないところで好きな人が知らん男に泣かされるの。

アスカはやっぱり泣きじゃくって、もう何言ってるかわからなかった。

平日だったからそんなに人はいなかったけど、

それでもちらほらやっくる人にはめっちゃ見られた。

ひとしきり泣いた後、



「ちゃんとわかったよ。今までごめんね、いーくん。

わたしちゃんとするから。いーくんにばっかり頼ってごめんね。

大学の相談乗ってくれてすごい嬉しかった。

もう頭の中めちゃくちゃで、ただただ親に言われて勉強だけしてたけど、いーくんと出会ってからはちゃんと自分の人生を楽しめたよ。

それで、わたしのこと、好きって言ってくれる人ができました」



115:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:16:06.447ID:QpGUt7vXH.net
それを聞いて俺もなんか泣けてきて、
墓の前でしゃがみこんでるアスカを後ろから抱きしめた。

こう、めぞん一刻みたいなこと言っていい感じにしたかったけど、
現実はそんな甘くなくてなんもいい言葉出てこない。

うぇうぇ言いながらまだなんかアスカが話してたけど忘れたw

「アスカさん。……俺、年下で、経験少ないですけど、一生大切にします。絶対、アスカさんの一番になってみせます。本当に好きです」
「うん。……うん。そっか」
「はい」
「……じゃあね、俺くん」
「はい」
「スロット辞めて……?」

これな。
人がプロポーズかってくらい頭ひねって何とか捻りだした言葉にこんなこと言うんですよ。
涙流しながら鼻赤くして、呆れ笑いして目の端の涙を指で払ってた。
ギャルゲーとかだと絶対一枚絵になってたと思う。



116:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:17:01.010ID:QpGUt7vXH.net
それで、ちゃんと諸々も清算して、アスカは宣言通り大学に入学。
俺のスロライフはアスカの大学卒業と同時に卒業する約束をした。

そんで。
今年の三月で無事にアスカは卒業しました。

付き合ってるのかも謎な関係ですが、もう一回ちゃんと告白するつもりです。

スレ立てたのは、GWにまどマギ追悼会(9月で完全撤去される)をやって7万負けたのと、卒業してすぐ告白するつもりが今日までうだうだしてしまった自分にけじめをつけるため。

あと途中でいわれてたけどVIPでこういうの書くのが夢だったw

読んでくれてる人そんなに多くないと思うけど、
勝手にこれ読んでくれた人が応援してくれてると思って頑張る。

これで俺の話は終わりです。

駄文、クソスレすいません。

読んでくれた人、コメントしてくれた人、保守してくれた人、
みなさん本当にありがとうございました!!!!!



117:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:21:40.626ID:slhA/QTx0.net
おつかれさま
告白はいつするんだ?
また結果をスレ立てしてくれ



118:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:23:16.139ID:QpGUt7vXH.net
>>117
俺のオ●ニーにお付き合いいただいてありがとうございます。

いつにしましょう…。
けっこうここで迷惑かけてると思うんでスレは立てないかとw
上手くいったら嬉しくて立てちゃうかもしれませんがw



120:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:34:42.369ID:slhA/QTx0.net
>>118
思い立ったが吉日とも言うしすぐに行動しな
そうしないとどうせお前またうだうだするだろ?



121:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:45:10.411ID:h2j3mjbD0.net
>>120
ですね…。
りょうかいです!



119:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:27:32.915ID:6zyZcooe0.net



122:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします: 2019/05/14(火) 23:45:26.996ID:h2j3mjbD0.net
>>119
ありがとうございます!





引用元:http://blog.livedoor.jp/kinisoku/archives/5059699.html

パチンカスになった俺がメンヘラ女を好きになった話を語っていく